ゲームオタクの彼女
VRMMORPG、『
通称LFO。
プレイヤーは太古の昔に滅びた『
凍結睡眠から起き上がったプレイヤーは通称《眠りし人》となって、機械文明であった神代の時代の遺産『
広大なマップ、現実と変わらない操作感、オブジェクトやサウンドの作り込みなどが群を抜いているが、なんといってもこのゲームの一番の特徴は、自由度の高すぎるメイキングシステムだ。
『幻想は終わり、君の物語が始まる』というキャッチコピーの示す通り、このゲームではほぼすべての要素がプレイヤーの
装備類は効果から自分で設定でき、建築物や施設すらプレイヤーが建築改造し放題。挙句の果てにはアイテムやスキル、魔法すら一から創れる。
想像は終わり、現実のものになるわけだ。
元は一部に機械的な建造物があったが、他は中世ヨーロッパのような様相の街並みだったが、いまやプレイヤーが開発、普及させたり発掘した古代遺物でその様相は至る所が様変わりしている。
先日一周年の大型アップデートを迎え、昨日そのアップデートで新たに存在が確認できたユニークモンスター《天雷の神王竜 ゼウス・デウス》に殴り込みをかけてなんとか倒してきたこのゲームが。
俺、
*****
「くぁ……起きた」
時計を見ると時刻は十二時頃だった。昨日の夜からずっと寝ていた体を動かしてみるとバキバキだ。やはり人間には寝過ぎというのも体に悪いらしい。
電脳世界にフルダイブするための機器、それもゲーム専用に設計されたチェア型高性能ゲーミングVRシステム『ホライゾン』から体を起こす。
ゲームで疲れ切ったり寝落ちしたときは、というより最近は春休みという免罪符に任せてゲームをやりまくってるせいで、ほとんどベッドと化しているホライゾン。
お高いだけあって寝心地がいいのも原因の一つだろう、俺がだらしないとかいうわけではないんだ。
「あー腹減った……メシと水~」
『おはようございます、マスター。昨夜は大活躍でしたね』
フラフラと冷蔵庫を目指してリビングを歩く俺にかけられる美少女ボイス。一人暮らしの俺に自宅で声をかけてくるのは一人(?)しかいない。
いまや一般家庭にも普及している生活サポートAI、その独自カスタムモデルのカナンだ。高校生の身で一人暮らしの俺は彼女の世話になりっぱなしだ。
『冷蔵庫には食材がほとんどありませんので、適当に出前を頼みました。それから食材も注文しましたので、届いたら冷蔵庫に入れてくださいね?』
……こんな風に。
「あー……ありがとうカナン。いつも助かってるわ」
『いいえ、マスターのサポートこそが、私の生きがいですので。生きていると言えるかはわかりませんが♪』
「最近流行りのAIジョークやめとけ。ほんと自動学習アップデートに熱心だな、お前」
そのおかげでどんな昔のネタにも反応を返してくれるのは嬉しいんだが。
そんな我が家の優秀なサポートAIが出前を頼んでくれたので、それまでテレビでも見ていようかとエナドリ片手にリモコンをポチる。
「……やっぱ平日の昼間はどこもニュースや討論番組ばっかだな」
『昔から変わりませんからね、平日の昼間のテレビ番組はお堅いんです。もしくはドロドロの昼ドラですね』
そんなものを見る趣味は持ち合わせていないのでノーカウントだ。
そうなると、遠い場所の名物店の情報だったり、株価の変動であったり、興味の無い芸能人のスキャンダルなどが紹介される番組ばかりだ。
根っからのゲーマーな俺にはどれもあまり興味の持てない内容だ。それらを流し見ながら、ちょうどニュース番組にチャンネルを変えたときに、スマホから音楽が鳴った。
「はぁ……誰だこんな朝っぱらから電話かけてくる奴は……」
『マスター、今の時刻は真昼です』
俺にとっては朝なんだよ……スマホも遠いし、あとでかけ直そうかと怠惰な思考が頭を支配してくる。……まいっか、あとでも。
『あ、ちなみにソラナさんですよ』
「バッカお前それ先言えよ!」
どんな状態だろうが彼女の連絡すっぽかすわけにはいかねぇだろ!
俺は跳ねるようにスマホに飛びついた。連絡を返さないと怖いんだ俺の彼女は。
『おはよう優我! もしかしてまだ寝てた?』
「おうおはようソラナ。起きてたよ、半分な」
『そっか、それなら電話に出るのが遅れたのは許してあげる』
「ありがとうな……」
この、若干愛が重いような気もするのが俺の恋人、
俺と同じでかなりのゲーマーで、当然昨夜のゼウス・デウス討伐戦にも参加していた。空を駆けてゼウス・デウスの角に突っ込んだ銀色のプレイヤーが彼女だ。
俺や友人たちと並んで、LFOのトッププレイヤーの一人に数えられている。
『次は早く出てねー? で、電話した用なんだけどさ。グループのチャット見てるかなって思って』
「グルチャ?」
グルチャというならリア友のチャットか。俺が寝ている間に何かあったのか?
『うん。四人でゼウス・デウスの素材を見てみようってなったんだけど、優我が既読つかないから』
「え、マジ?」
昨日のゼウス・デウス戦疲れで、こんな時間まで寝こけていたから気付かなかった。
安眠を押し付けてくるホライゾンが悪い。
『だから来れるか確認しようかと思って。優我がいないとなにもできないからね』
俺は戦闘をメインにプレイしているが、生産もそれなりにやっている。そして仲間内に生産職をかじってる奴などいない。素材の研究検証は俺がいないと始まらないのだ。
配達が来たらカナンにメールを送ってもらい、一時ログアウトする手もあるが……すぐに来そうだし、それがわかっててログインするのもなぁ……
「わかった。なるべく急ぐよ」
『できるだけ早く来てね? イチャイチャしたいから!』
「ははは、俺もだよ」
『――あ、ところでさー』
もうこれで終わりかと通話を切ろうとしたが、ソラナが聞いてきたので通話を続ける。
「どうした? ソラナ」
『昨日限界だーって早く抜けていったけどさー、
オンナとか連れ込んダり、してナイよネ?』
声音だけで、首元に刃物でも突きつけられたような錯覚を覚えた。
「……やだなぁ、ソラナがいるのにそんなことするわけないじゃないか。今やってるのはテレビだよ」
俺は誓って清廉潔白だ。なにもやましいことはしていない。カナンのことは以前ソラナがウチに来たときに紹介しているのでそれにはあてはまらない。
『ふぅん……わかった! じゃあまたあとでね!』
そう言って電話を切られた。スマホのホーム画面に浮かび上がってきたのは、綺麗な銀髪と笑顔を輝かせた美少女とのツーショットだ。
「……ほんと、可愛いなぁ」
今の笑顔、引きつってないよな。いやほんと、可愛いんだけどなぁ……怖いんだよなぁ。
ソラナとの日常を複雑な想いで思い出していると、インターフォンが鳴ったので俺は玄関へと向かった。
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