モニカの証言

辺境伯の書斎で紙片が燃え上がった。ぼうっと走馬灯が壁を駆ける。

「俺は奴らと違うんだ。正しい判断をして正しい道を歩んだ」

中書島閉太が流暢に人生訓を説いている。

自分は無駄な努力をしない。無能な輩は視野狭窄している。彼らは陳腐で旧式な武芸に固執する。その矮小さにしがみつく卑屈さが人間の恥部を晒している。俺は別格だ。生まれつき広い知識と才能を得た、と述べている。

「問題の箇所はここですよ」

宇月が回想を停止する。

生まれつき、と閉太が言った。「僕も人間離れしてるなと思ったんです」、と江頭。

「これはいったい…まさか」

辺境伯は腕組みをした。宇月が続ける。「才能はともかく知識って生まれつきですか?」

ハッとメイプルフォード家の住人が青ざめる。

「御嬢様は何より文芸がお好きでした。お館様、私めがもっと早く」

侍従は泣いて詫びた。「それよりべリズムはまだか」

辺境伯は気が気でない。娘の部屋は何重にも施錠され腕利きの盗賊が何人も匙を投げた。


その頃、チェルシアは短刀を胸にあてがった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る