並木道

たまには翼竜の背でなく大地を踏みしめたいものだ。そよ風に靡く街路樹が太陽をまばたきさせる。その明滅が退屈な日常にメリハリをつける。

「基本術を捻って独創だと言ったり用心棒を雇う奴なんて雑魚だよ」

閉太がテクテクと先を急ぐ。丸喜屋の棒肉は夕方に売り切れる。

「それって単なる他力本願じゃん。宇月といい万能感を拗らせてるだけよね」

チェルシアが追い付いて肩を並べる。

「あいつに言い寄られたんだって?」

男はいつの時代もストレートだ。罐をかけている。令嬢は身構えた。

「いいえ。ねぇ、聞いてよ」

彼女は胸中をぶちまけた。宇月は権威主義者だ。数字に依存する。武芸と文芸の成績で釣ろうとした。

「文武両道で女子にモテて耳目を集めて自叙伝を出版してベストセラーになって社交デビューするんですって」

思わず閉太は吹きだした。「幼児の抱負かよ。俺は文武で勝ったけどね」

二人は宇月をあげつらう。吹聴するより有言実行が大人の態度だ。

「将来を語るだけじゃ現実にならない」

チェルシアは意味深な目線を投げた。

「そうだな。俺は黙って結果を出した。凄い凄いって奴らは羨むけど人並外れるってこういう事さ」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る