背伸びしたい思春期
エメラルドグリーンのグラスに氷とストローが二本。
純白のスコートを纏った少女と日焼けした少年がカフェテリアの隅で議論を闘わせている。
「貴方はそうやっていつもはぐらかす!」
「人生はあっという間だからね。俺は現状に不満はないが見切りをつけてる」
よそよそしくあしらわれて令嬢は憤慨した。「何が気に入らないの?」
閉太は足を組み替えた。ぽかんと空を仰ぐ。「全力を出したいんだ。俺はまだ若い」
ちょうど御前試合の予選が終わったところだ。閉太は並みいる強豪を蹴散らしてリークを一位で通過した。同時に行われた文芸選抜では自己記録タイにとどまった。「相手が不足してるって意味?」
チェルシアは練習風景を眺めた。緩慢な動作で白球を追っている。
「あいつらは親の七光りだ。漠然と生きてる。大した家柄でもなにのに志だけはデカいんだよな」
アルザーンはお坊ちゃん学校だ。中流貴族の子が受け継いだ荘園を経営するためのノウハウを教えている。ところが最近では甘やかされた蛙の子が鰐になりたいと望んでいる。
「気骨がなさすぎるというの?」
「そうだね」
閉太はガバと上体を起こした。「魔道昇降機的に元老院議員に成りたいというね。それがムカつくんだ。高望みは翼竜の特権だぞ」
つまりライバルたちは棚から牡丹餅を狙っているというのだ。成績次第では帝王学校の特待生としてスカウトされる可能性が無きにしも非ず。
チェルシアは練習生たちを憐れんだ。
「何もしないで果報は寝て待てって…自分の作品だけにしとけって。まぁ、楽な立身出世コースはあるわ。真剣になりたいのなら科挙制度に合格するとか議員秘書に応募すればいい」
「俺が親身になってアドバイスしても馬耳東風なんだぜ。おまけにだ」
男爵はボールをポンと放り投げた。
「学生気分を満喫したいんだとさ」
「あっきれた」
チェルシアは口をへの字に曲げた。
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