少年の死と転生

ド・ジッター家の子息が辺境伯令嬢に非礼を為したという噂はたちまち領内を席巻した。

と、いう事もなくただひっそりと訃報が伝えられた。かねてより病を患っており予後不良と判断され医者の計らいで最後の団欒を許された。一時退院して家族のもとで過ごすうちにかねてより通いたかった学園に転入した矢先の事故。

木登りも本人の強い要望が周囲の反対を押し切った結果だという。そこに噂のお嬢様が通りかかったという次第だ。ハルコーネは最初で最後の告白をした。夭折した少年の太くて短い生き様を許してやってほしい。喪主挨拶で公言されてはチェルシアとしても無下にできない。

こうして気弱な少年は灰になった。

魔導士べリズムの祭壇に置かれる骨壺の中身として。


中書島閉太ちゅうしょじまとじたは全くの生き写しである。遥か東方、渤海の果てにある由緒正しき王国から移り住んだ貴族。中書島家の次期当主である。サムライ候補でありながら短句をたしなむ。文武両道に秀でた好青年だ。ただ、その態度が鼻につく。よって自然と若い女の子から煙たがられる。


チェルシアはあの事件があってからというもの父親から勉強の総量規制を課せられている。よく遊びよく学べという渤海皇国の諺を引用して戒めた。

というわけで学園のスポーツクラブに出入りするようになった。運動音痴ゆえレギュラーポジションでなく女子マネージャー扱いである。その練習中に通りかかったのが閉太だ。

高圧的な挑発で女子部員を発奮させハンディキャップつきの練習試合で打ち負かした。それ以来何かにつけてチェルシアにちょっかいを出すようになった。

ある晴れた昼下がり。チェルシアが白球を目で追っていると

「君、スコアカードに走り書きしてたよね」

コートの隅から目ざとく駆け寄ってくる。女子たちは潮が引くようにさぁっと姿を隠した。「何よ。藪から棒に」

あわててノートで胸元を隠すと閉太は白い歯をニヤリと剥いた。

「コソコソしなくてもいいぜ。ちなみにそのフレーズは修飾過剰だ」

ぽっ、とチェルシアは顔を赤らめた。「その話は内緒。あとでカフェテリアに来て」

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