恋の予感

「機嫌なおしてくれよ」

日が西に傾くカフェテリア。大皿に山盛りの焼きそばパンが手付かずのまま残っている。辺境伯のお嬢様はそっぽを向いたまま活字を追っている。

「参ったな」

少年はバツが悪そうに席を立った。女の子が好きそうなホイップクリームたっぷりのフローズンデザートを眼前に置く。それでも彼女は食いつかない。

「なぁ…いい加減に許してくれよ。頼むっ」

少年は昼間の狼藉を再三再四わびたうえに平伏した。

「いい加減にして欲しいのはこっちよ」

キュッとすぼんだ唇から白い歯がのぞいた。

「えっ? いや…あは…」

彼女いない歴生涯。初めて反応らしい反応があった。少年は的確なリアクションを交際知識に持ち合わせていない。しどろもどろの態度に令嬢が爆発した。

「一緒にいて欲しいならもっとシャキッとして!」

「へ?」

さらに委縮してしまう。

「そのキョドりが嫌なの。男なら父様みたいに構えて。でなきゃ私の半径百メートルは出禁」

「で、出禁って?!」

厳しめの条件提示に少年は凍てついた。

「もぉ…鈍い子ねっ…バカッ」

チェルシアは一目散に走り去った。

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