FACT.2 アジア系実習生

(調整中)

…自爆…自縛

ピーッ…地縛…呪縛…地産地消…儒学…

…就学…留学


X物流センターに対する攻撃は単独犯の実行。本人の背後や交友関係に過激派組織につながる証拠は無く、日本国政府はテロの可能性を否定した。


アジア某国から2018年度に来日した技能実習生グエン・タンソンニャット(仮名)は元看護師である。ジャパニメーションで日本に興味を持ち少子高齢化による人手不足を海外に求める業界の招きに応じて渡航した。目標は国家資格者として日本の介護施設職員として勤務すること。


しかし緊急事態宣言中に実習先の通所介護施設でクラスターが発生。地元の知事が公民館、図書館、その他不特定多数が集まる公共施設の休業を宣言。さらに保育所、託児所、通所リハビリテーション、通所介護、認知症カフェなどの閉鎖を要請したため自宅待機となり、そのまま整理解雇。

技能実習生は雇用調整助成金の適用範囲外と判断されたためだ。

日本語学校の授業料、家賃、生活費、渡航ローンの返済に窮したグエンはX物流の求人に応募した。

当時は猫の手どころかムカデの節足や軟体動物の触手まで借りたい状態。グエンは即決採用された。

施設で利用者一人ひとりに配慮した調理経験のあるグエンは社長のお気に入りとなりたちまちリーダー格に抜擢された。

面白くないのは部下の日本人たちである。ウイルスは外国から持ち込まれたという被害者意識と島国根性が相乗効果を発揮した。敵愾心と反骨精神とライバル意識と排他的支配が渾然一体となってグエンに向かった。

有形無形の嫌がらせが相次いだ。指示に背いたり手抜き作業されるなど序の口。故意に大失敗した部下をグエンが優しく慰めているとパワハラを虚偽報告されたり公益通報者保護法に従ってありもしないグエンの違法行為が通報された。そのたびに社長室に呼び出され潔白を証明していると、進捗の遅滞を連携する部署から針小棒大に伝えられる。

あまりにもたくさんの苦情をかばいきれなくなった社長は組織の保身を選んだ。

グエンは懲戒解雇され在留資格も失った。

倉庫から小麦粉を奪い粉じん爆発を企んだ。

犯行直前に無差別殺人ではないこと、憎悪の対象は社長個人であることをつまびらかにし無関係な従業員に避難を呼びかけた。

最後に彼は涙ぐんでこう繰り返した。

『日本が好きだった。日本人という民族に恩義と尊敬をおぼえる』

『しかし社長は嫌いだ』

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