第27話 これでまるっと収まった……? 2


 話はもう一度、綾音、いや、プリシア達が銀河の部屋にやってきたところに戻ります。

「我々と、グライス特殊部隊が、交戦開始しました」

 何かが撃ち込まれるような音と、不規則な振動で揺れ、明かりが点滅する部屋の中。

 綾音が、部屋にやってくるなり言いました。

「えっ、グライス特殊部隊……? 軍隊がここにいるの!?」

 猫山美也子が、目を丸くして言いました。その顔は外の夜よりも青いように思えました。

 グライスのお姫様で救出対象であるトレアリィと、おつきの人工生命体メイドのディディは顔を見合わせました。

 そして、この家の今の主人である天河銀河は、ぽつりと問いかけました。

 問いかけるというよりは、むしろ確認するといったほうが正しいような口調です。

「グライス特殊部隊……」

「ステーションシップから、二番ちゃんとペリー王妃を奪還するために派遣されたのよ。むろん交渉しましたけれども、無理でございました」

「こんな時に二番ちゃんよばわりって……!」

「あら、これは愛称よ、あ・い・し・ょ・う」

「本人が嫌がっている場合は愛称じゃないわよ!!」

 二番ちゃ……、もとい、トレアリィが抗議しているのをプリシアは華麗に無視して、プリシアは銀河に歩み寄りました。

「天河君、あなたをこんな面倒に巻き込んじゃって申し訳ないわ。私にで……、って、天河君、もしかして?」

 プリシアは何か言うのを自ら遮り、銀河の体をまじまじと見ました。

 まるで身体検査をするかのようです。

 そして、一通り見終わると、そばにいたトレアリィに向かって言いました。

「二番ちゃん、あなた、何かした?」

 外は闇。爆発音に、振動。わずかに窓から入る、ぼおっとした赤や青の光。

 騒乱の中で、一瞬トレアリィは黙りました。そして、唇のはしを歪めました。

 その顔は、自分が棚に並べたコレクションを自慢するような表情です。

「そうよ、ちょっといいことしちゃった。ご主人様とわたくしが二人っきりの間にね」

 しかしプリシアはそれに意も介せず、微笑みながら言いました。

「なら、ちょっと天河君。失礼いたします」

 そう言うとプリシア、いや綾音は、いきなり自分の顔を銀河の顔に近づけると。

 銀河の唇に、自分の唇を優しく重ねました。

「!?」

「天宮さん!?」

「プリシア!? なにすんのよ!?」

「プリシア姫様!?」

「マスター!?」

 その場にいた人達が、一様にプリシアのしたことに対し驚きます。

 プリシアはみんなにかまわず、唇を重ね続けます。

 唇を重ねてすぐ、プリシアの体が白く輝き、小さな光の粒が彼女の体から立ち上りました。

 その光の粒は唇を通して、銀河の体へと注ぎ込んでゆきます。

 なんという美しく、はかなげな光景。まるで蛍の交尾のような。

 それは、先程のトレアリィとの交わりと同じ種類のものでした。

 その光を飲み干すように、プリシアが放つ白い光は、銀河の体へと注ぎ込まれていきます。

 その時、トレアリィはようやく悟りました。プリシアは、自分と同じことをやったのだと。

「プリシア! まさかあんた!」

「それ以上は言わないで。『聞こえる』わよ」

 プリシアは、強い口調でトレアリィがそれ以上言うのを押し黙らせました。

 それを察したのか、トレアリィも一つうなずくだけでした。

 銀河は何が何やらという顔をしましたが、そのとき、銀河の視界に、

<電文:プリシア>

 という表示が入りました。それを視線でクリックすると、ウィンドウが表示されました。

 しかしみんなには、それに気づいたそぶりはありません。

 外からは見えない非表示ウィンドウなのです。そこには、こう書かれていました。


「私はアキトと出会い、恋に落ちて駆け落ちしました。

 が、アキトは年下愛好家≪ロリコン≫であって、自分が好きだから駆け落ちしたというわけではありませんでした。

 だから最近彼は、自分に対して愛情を失っていたのです

 それに今更気がつきました。恥ずかしながら反省しています。

 また、宿主の綾音のこともあります。

 私がこのまま帰ったら、干物系の綾音は大いに困ることでしょう。

 私はここにいたい。

 だから、私はあなたの力になってあげたい。

 その代わり、力を貸して。お願いいたします」


 その言葉で、メッセージは終わっていました。

 メッセージを見たとき、銀河は、綾音は困っているんだ。と思いました。

(今現出しているお姫様のプリシアも、潜んでいるぐーたら美少女の綾音も、みんな綾音だ)

(だからこそ、彼女を助けてあげたい。トレアリィと同じように。ミャーコと同じように)

 そう決意すると、銀河は綾音に力強く一つうなずきました。

 その時です。

 銀河達の脳内に、にっくきアキトの声が響き渡りました。

〔これから家ごと海の中の艦へと転送する。ちょっと酔うが我慢しろ〕

「え、家ごと海の中へ!?」

 美也子がそう驚く間もなく、目の前がぐんにゃりと歪むのが見えました。

 同時に、世界がが揺れているのか自分が揺れているのかわからず、胸から胃腸に溜まっているものが駆け上がってきます。

 そして、目の前が何も見えなくなり、

「──なっ、なんなのよこれー!!」

 悲鳴を上げつつ、彼女の意識は、闇の中へと落ちていきました……。

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