毒気と狂気
「規約違反に当たらない」
ゼロ解答が来た。正当な批評だと運営が言うのだ。まとめのリプ欄は分単位で伸びている。柿沼は横暴だ。駄作者を煽ってネット資源を貪っている。そんな陰謀論さえ飛び出す始末。やってられない。奴らいう表現の自由は恣意的だ。
「駄作って何だ。評価や好みは人それぞれだろう…」
弱肉強食を担保する多様性の必要悪を説こうとして止めた。ああ言えばこう言う連中だ。さりとて法的手段に訴える暇も金もない。
人の口に戸は立てられぬという。柿沼は悩んだ。筆を折ろうか。どうせ金にならない趣味の創作だ。投稿サイトもSNSも退会してネット利用は通販限定にすればいい。そして別の趣味を見つけるのだ。書を捨てて街に出よう。その為にはまず身辺整理だ。投稿サイトのアカウント削除は躊躇した。作品も消えるからだ。まずSNSを辞めようとして阻まれた。
「貴方のIDは凍結されています?」
身に覚えがない。いや、ある。
「そうか。通報の報復か」
何かが起きている。柿沼は戦慄いた。映画風に言えばこれは警告なのだろう。
命を狙わずとも家族や職場を巻き込む嫌がらせは匿名でやり放題だ。どうすればいい。迷惑をかける前に筆を折ろう。柿沼は覚悟を決めた。
「PWが違います?そんな」
ログインパスワードが変更されていた。再発行に必要な連絡手段はロックされている。
「いったい誰が?」
柿沼は頭を抱えた。とまれ犯人の目的は半ば達成された。新作の発表はない。だが別のサイトでやり直すことは出来る。ポイズンはそれで満足するだろうか。
「奴は俺の作家生命を抹殺したい筈だ。だが連絡手段は潰れた。どう出る?」
柿沼は思考を巡らせた。一つだけ方法がある。
「感想欄か!」
自分の作品にゲストアクセスするなんて屈辱だ。どうにもならない惨めさを味合わせたいのか。柿沼は悔し涙をこらえつつ感想欄を開いた。
新着が一件あった。
【貴方の作品が好きです。続きが読みたいです】
ポイズンとは別アカウントだ。どうせ自演だろう。何を考えてるのだ。
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