ポイズン

「言ってくれるじゃねえかよ」

柿沼は執筆の手を休めてSNSのログイン画面にアクセスした。

するとエラーメッセージが表示された。

「このコンテンツはパソコンからは投稿できません。専用アプリをインストールしてお楽しみください」

半年ROMってる間に中の世界は一変していた。セキュリティーが強化されスマホアプリに特化したシステムになっている。

「しゃあねえな」

柿沼は慣れない手つきでスマホを弄り始めた。


リプライの主は読者(@ポイズン)を名乗っている。急造のアカウントらしくフォローは1件、フォロワーはゼロ。捨てメアドで取得したサブ垢だろう。プロフィール欄もアイコンもデフォルト表示のままだ。恨まれる心当たりはなかった。柿沼にとって作品以外の執筆作業はロスタイムだ。感想欄で形式的なお礼はするが自分から評価をつけることはまれだ。

従って特定少数との交流も皆無。投稿サイトのフォロー数は勿論ゼロ。恨まれる理由を強いてあげれば「感想返し」や「相互評価」、フォローバックをしてない点だろうか。それとて柿沼にとっては無駄な作業だ。まるで評価や感想をギフトのように融通すれば評価する意義が損なわれてしまう。

柿沼は心の狭い人間だと思われてもよいと割り切った。反感を恐れるあまり自分の正直な気持ちを偽った誉め言葉を連ねる作業に疑問を感じる。

「きっとこいつは感想乞食の逆恨みに違いない。男は黙ってブロック」

読者(@ポイズン)を拒絶リストに追加した。

これで平和が訪れるだろう。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る