悪い子にはプレゼントはあるのか
「ぜい…ぜい…」
吐瀉物で汚れたコートを脱ぎコスプレの体操着ブルマ姿のまま撫子がえずく。
「尚子が死んだ。サンタクロースのギフトには色々あるみたいだ」
霧のかかった夜景を黒煙が汚している。アランは救急車と消防車の列を飛び越えた。
「ねぇ…こんな事をいつまでするの?」
玩具や御菓子を与える親に本当の愛はあるのだろうか。あるいは履き違えた愛情表現やお手軽な代償行為なのだろうか。撫子は虚栄というか所有欲で独身男性を刺激し続けている。配達区域に大きなお友達を幾つも抱える自分にとって愛情とは雲をつかむような話だ。定義なんてない。人々は無償の愛に「あえて」損得勘定を導入する理不尽を日常的にこなしている。矛盾だらけの人生を器用に乗りこなす他人が羨ましい。撫子は聖夜のルーチンワークを感情の鈍麻で凌いでいる。!
「サンタクロースの任務から解放される方法を教えて」
撫子の癇癪玉が破裂した。
「死ぬしかない。尚子も咲奈もお役御免になった」
「そうじゃなくて」
「逆に俺が知りたい」
アランは声を荒げた。テンパった女を構ってやるのも愛情だが今は配達に集中したい。ノルマ達成で1年間の休暇が手に入る。
次に降りた家も鍵っ子だった。
「私のお母さんは国際医師団の看護師なの」
留守番の少女がうつむく。
「へぇ…立派な仕事じゃない」
洋服とアクセサリーの受け取りを拒んだ。
「要らない。母は悪人です」
撫子は理解に苦しむ。
「どうして?」
「盗っ人だから。テロリストの家族や親類を採血してアメリカに売ってるの」
無人攻撃機で爆殺した容疑者のDNAで成果を確認するためだ。
「そんなの出鱈目よ。都市伝説よ。お母さんをもっとリスペクトして」
撫子が懸命に励ますとアランが首を振った。
「本当だ。懸案事項だったフィル・レーベン。テロ組織の創設者だ。諜報機関が暗殺した」
アランは報道で見聞きした内容を教えた。
「だから悪い子にプレゼントなんかないです」
そういうと扉を閉めた。
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