墜死

おめでたい夜だというのにブルーシートが赤黒く明滅している。現場検証と捜索が同時並行する現場から一枚の奇妙なメモが回収された。

「メリークリスマスだって?冗談じゃない…いや、内心はホッとした」

半壊したジムのオーナーは不謹慎な吐息を漏らした。繰り返す時短要請と再開で経営難が深刻化し今年いっぱいで閉鎖する意向だった。

だが常連の励ましが足枷だった。ジレンマを雹が解決してくれた。

「航空事故調査委の処理待ちになります。貴方に責任は一切ありません。お疲れ様」

雨が雪に変わる時刻に任意聴取から解放された。彼はやっと自身の現実に向き合う余裕が出来た。「…尚子?」

筆跡に見覚えがある。経営者特有の根性で密かに入籍を狙っていた。だが尚子はいわゆるメンヘラちゃんで悪酔いした際に心中を強要する癖がある。

一度は懲りたものの諦めきれず距離を置いて様子見していたが現場から遺体で見つかった。

「都から自粛要請が出てるのにどうやって入った?」

オーナーは鞄をまさぐって青ざめた。セキュリティーカードの予備が紛失している。「そういう事か…」

彼は一関係者として尚子の通夜を見舞った。そこで親族がら熱烈歓迎された。心外だ。生前の尚子はオーナー愛を語っていたという。

「参ったな。僕にできることはありませんか」

罪悪感に苛まれていると叔父がスポーツジムの件を切り出した。「こちらこそ尚子のお礼を…」

事故から一年後。更地に建った養育施設でサンタに扮する羽目になった。

任務は伝染する。

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