さんたうつ

「は~どうしろってのよ~」

狭苦しい踊り場。ビキニ姿の若い女達がボア生地の赤いチュニックを纏う。隙間風で素足が毛羽立つ。

「新型コロナでも平常運転だってさ」

同僚の咲奈が恨めし気にスマホをなでる。NATOは橇の領空通過を許可しWHOはサンタの免疫抗体を公認した。「時短要請に喘ぐよりましだわ」

撫子が丸首シャツを被りブルマに脚を通す。休業に応じた店から勝手に持ち込んだ備品だという。「いいわね~暖かそう」

尚子の羨望を自嘲で返す。「今年は大きなお友達や子ど叔父も支給対象だって!背筋が凍るわ」

そういい捨てるとトナカイに鞭打って単身者専用住宅へ飛び立った。

「ジングルベルはいつ鳴りやむの?」

尚子は胸中で地球儀を回し北極点に悩みをぶつける。即座に天啓を得た。

『同僚と苦労を共有せよ。されば救われん』

がっかりする助言を右に流し山積みの白袋を担ぐ。中身は紙のゲーム盤だ。


こんな息苦しい夜に鳴りを潜めて遊べというのか。憤る両親と素直に喜ぶ子供達。

ベランダ越しに寛ぐ家族の元気が癒しになる。尚子の世を忍ぶ仮装は児相臨時職員。教育省が補正予算で確保した電源不要の玩具を訪問配布している。既知が群れ騒ぐ歓談も余興もない。形骸化した風物詩を繕ってどうなる。尚子は空疎な任務に深海の水圧を感じた。もう嫌だ。配達を終えて気持ちに余裕ができるとロッカーの置手紙を思い出した。

そして橇から身投げした。まばらな街の灯が不幸な最期を電飾する。せめてものメリークリスマス。スカートのポケットから受領書の束が零れた。尚子はハッと気づき胸のボールペンを外して遺言をしたためた。

それは宙を泳いであのジムの方角へ消えていった。


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