Mebby X'masos(メビークリスマウス)
水原麻以
恋人はサンタクロース
『ハッキリ言う。迷ったら躊躇なく殺(な)せ。それが私の贈り物だ』
投函された一枚のメモ。見知らぬ筆跡に尚子は震えた。鍵付きロッカーの不審物を受付に苦情したあとスマホでタクシーを呼んだ。女性専用のジムと聞いていたが明らかに男の殴り書きだ。振り返りつつ玄関を通り戦慄く指で暗証番号を変えた。数少ない女友達は職場で事務的な会話をする間柄だ。尚子は朴訥で私生活も心もなかなか明かさない。いったい何処の誰がという問いより何故が先立つ。
誰も知らない知られてはいけない。サンタクロースは裏稼業だ。鉄則を忘れた者には苛烈な追求と残酷な制裁が下る。唐突に任命された夜の動悸と不安を尚子は覚えている。小学校五年の冬休み。靴下の底に念願のゲーム機と召集令状が潜んでいた。稚拙な演出ではない。両親の背後に立つ三白眼の老人は予定調和を砕いた。猫なで声に咆哮が重なる。
「今度はお前が贈る番だ」
尚子は黄色い体液でゲーム機を濡らした。こくこくと必死で頷く。
それから人生が一変した。北極点の中央集権に隷従し聖夜の契約履行を前提に尚子の行事予定が組まれる。
「仕事は?結婚は?子供は?」
無慈悲かつ無神経な人々の質問に彼女はいらだち自問する。サンタクロースとなぜ言えぬ。
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