ローマの神殿にて
闇に輝く完全骨格。骨盤の開口部が狭く男性であると考えられる。
脊柱は前のめりに歪曲しており荷役か土木作業に従事しているのだろう。やがて血肉がついて人間らしいシルエットになった。アフリカ系の顔立ちだ。肌は浅黒く皮革製のチュニックを腰に巻いている。歳は二十代前半のようだ。
声なき声が告げた。
新生児死亡率が高い社会でお前にゼロ歳児からやり直す根性はないだろう。拠って記憶喪失の回復からリスタートする。
「って、奴隷からかよ!」
自由民のポーテスはフォロ・ロマーノのカステル神殿の裏手で目覚めた。諸事情で自ら奴隷に身をやつしたのだ。そうしなければ殺されていた、と新しい主人が教えてくれた。「生まれ変わったと思って俺に尽くせ」
ポーテスは自分の立ち位置に漠然とした不安を覚えている。何となく違う。ここは私の居場所ではない。そう一人ごちている所を主人にとがめられた。求められるまま正直に胸中を告白すると彼は激怒した。そしてポーテスを思いきり殴った。そのショックでスイッチが入った。
「俺はポーテスではない。たけしだ」
「徴税吏から助けてやったのに!」
主人のマクラテウスは嘆いた。お前を愛しているとさえ言った。
「げぇっ、BL設定じゃんよ」
ポーテスは死神に苦情を訴えた。すると脳裏に3つの星が浮かんだ。ポイントを消費してピンチを切り抜ける。ボルケーノがくれた餞別だ。
「思い出したぞ。よーっし!奴隷を卒業したい」
ゴウンと世界が揺れた。
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