死神ボルケーノ、来参

風光明媚な港湾都市がなだらかな裾野に広がっている。中世ヨーロッパ風というより初期のローマ時代を思わせる。視点が山をくだっていくと青々とした海がどこまでも広がっていた。

「おっ、いいじゃん!」

たけしは迷わず契約書にペン先を向けた。死神の提示したプランは魅力的だ。GoToキャンペーンが異世界に拡大する予見をして企画段階から魔界が干渉していたのだ。それだけに手つかずのプライベート異世界がごろごろ在庫している。怪しむたけしにボルケーノは説明した。政府与党をまとめる人物がいる。その心に仲間が住み着いていて綿密な連絡を保っている。

「そういうの、悪魔のささやきと言うんじゃね?」

「さいでございます!お客様。その方は観光業界のフィクサーで…おっと、誰か来たようだ」

悪魔は行方をくらました。ただただ便箋がカラカラと北風に吹かれている。

「ねぇねぇ。異世界だって~でも、学校あるしぃ~」

履いてるのか履いてないのかわからない丈のスカートが翻る。たけしは振り向こうとして慌てて目を逸らした。そしてドキドキしながら聞き耳を立てた。

「どうしよっかな~」

「でもこれってヤバくね?」

そうか、いい事を聞いた。たけしは荒ぶる心臓をなだめた。きっとボルケーノの顧客だ。やはり、うまい話には裏がある。危うくサインするところだった。

「ヤバいヤバい。ぜったいバエるよ、これ~」

「やっぱ逝っちゃおう!」

ヤヴァイってそっちかよ。たけしは慌ててボルケーノを探した。

「おーい。俺もGoToさせてくれーっ!」


10トントラックがUターン禁止の交差点を強引に突破し、ハンドルを切り損ねた。横転した車体から前輪がはずれ、たけしの直撃コースに乗った…。

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