深淵よりのシ射・試者

「まさか触れた奴はいないだろうな」

ヘリオスは颯爽と陣頭に立った。無敵艦隊の母港は艦政本部、つまり参謀本部の管理下にある。上層部は式典に出席しており事務方トップの彼が留守の全権を預かっていた。既に漁民は隔離済み。調査チームは遠隔術で任務にあたっている。

「ならば問題はない。奴の血を浴びた者は皆無。間違いはないか」

確認を取ると全員がうなづいた。沖合でモンスターの腐乱死体が網にかかる理由はともかく現実問題としてどう扱うか。周辺は既に封鎖した。彼としては一分一秒たりとも無駄にしたくなかった。夕餉と入浴に時間を費やしたい。

そこで彼は大胆な対策を講じた、

「ゾンビ? 神も畏れぬ存在? はは…」

王立アカデミーの長老格がうやうやしく保管庫の鍵を開けた。歴代勇者が退治した怪異が記録されている。その閲覧もヘリオスはきっぱり拒否した。

「そいつは…そもそもドラゴンゾンビじゃない」

群衆から悲鳴やどよめきが巻き起こった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る