神様、おねがい

非の打ち所がない夫をどうして婚約破棄にできようか。バッジョが許してもベラやステファン夫妻が許さないだろう。

「あたしにはできない」

バッジョの前世が良心の呵責となって胸中に浮かび上がる。買い手市場に甘んじて内定を五つも取った女子大生。観光業界は空前の好況で笑みが絶えない。そんな楽勝な就活に刺激が欲しくてバナー広告に誘われるままポチってしまった乙女ゲーム。根っからの悪人でない彼女に悪役令嬢は荷が重すぎる。事実、コロナ禍に配慮したハメゾン置き配便が開けっぱなしの窓から頭を直撃した。それほどまでに自分は鈍かった。「あたしにはできない。夫に内緒で美人局するとか莫大な借金を肩代わりさせるとかそんな大それた工作」

出来ていたらハメゾン印の段ボールを枕に絶命しない。

もとよりバッドエンディングコースの選択肢は限られる。そのメニューに残念ながら自殺と他殺はない。

あるとすれば、考えたくもないが死別である。リーマボルトは軍人だ。

バッジョは不測の事態を祈った。

「ああ、神様。どうかお願いです」

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