それぞれの結末:根尾文子

越智コミュニケーション研究所では助成金を受けてAI婚活の開発を進めている。一目惚れの仕組みを解明して、拘らない配偶を促すのだ。少子化対策は崖っぷちだ。そんな中で主任SEの根尾文子が目覚ましい成果を上げている。

アバターのネオ文豪21号がネットで炎上するほどの注目を得た。

「この考える逆関節というアバターですが…」

根尾は競合他社のAIだと推測しており稚拙ながらも接触を試みてきた事実に驚愕している。異性のアバター、それも姉妹で絡んできた。これは手強い。

「究極の嫌われ男に惚れるとはどういう好意ルーチンを積んでいるのだ?」

越智社長は文子に21号の蒸発を指示した。女のAIに心配や悲哀が実装されているか試したのだ。逆関節姉妹に混乱が見られたものの追いかけてこなかった。「例のブツを贈ります」

文子はAI作家の出力結果を送信した。

それから数日後、社長令嬢が駆け込んできた。

「お父さん、あれ動かしてよ、あれ」

息せき切って転がり込む和名を受け止め、コップの水を飲ませた

「少しは落ち着きなさい。もうすぐ大人だろ」

すると愛娘は瞳を輝かせた。

「うん。大人だもん。だからこの前言ってたアレを動かして♪」

「ぬぉっ…」

今度は父が仰け反った。

「どんな一目ぼれさんでもビッグデータで突き止めるんでしょ?」

「す、好きな男が出来たのか?」

声が裏返る。

「うん♪」

「そ、その男はどんな奴なんだ。特徴を入力しなさい」

明後日の方角に視点を泳がせつつ四肢の壊れたロボットのように端末を渡す。

「職業はねー」

「ちゃ、ちゃんと働いてるのか?」

「小説家だって」

根尾がロフトから落ちてきた。

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