「美衣、覆面ライバーって…これ」

40万文字に渡る力作が寄せられた。絵に着想を得て背景ストーリーを寄稿する作家は少なくない。それも同意の上でだ。姉妹はコラボ設定をオープンなままにしていた。初期値だ。誰が好き好んでこんな落書きを二次創作するだろう。

甘かった。不可抗力な利き腕と名乗るその作風はネオ文豪21のものだ。

「うわあああ」

妹は言い知れぬ恐怖を感じた。目鼻立ちが判別不能な妖怪絵図にしっかりとした小説が執筆された。内容は元禄繚乱の世に蔓延る怪事件を謎の覆面男が快刀乱麻に断つ時代活劇だ。

「どーすんのよ、これ」

美衣は扱いに困った。返信しようにも不可抗力な利き腕は既に退会している。コラボ作品は受取人が削除しない限りは消えない。嫌がらせの証拠になるからだ。作品にはすでにブックマークが百件以上もついておりぞんざいに扱えない。

しかし放置すれば作者の正体に気づき、考える逆関節姉妹との関係を世間は疑うだろう。どうすればいいのか。美衣はジレンマに陥った。

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