たいへんだ。せんせいの霊圧がきえた?!

『……』


二日、三日、一週間待ってもNN21の近況報告に変化はない。



本物の女性から取扱いに困るレベルのイラストを送りつけられ、対応に苦慮しているようだ。

この模様は巨大掲示板のNN21先生ウォッチスレッドにも実況されている。


「ネオ文豪21大先生、息してないんじゃね?」


スレの常連が対象の安否を心配していたところ、悲報が届いた。


「NN21大先生の霊圧が……消えた?」

小説投稿サイト、SNS、ブログ、WEBレンタルサーバー。とにかくありとあらゆるアカウントが丸ごと消滅したのだ。忽然とだ。

理由は誰も知らない。四六時中ストーキングしていた暇人たちはアカウントが消える瞬間をリアルタイムで目撃していた。ブラウザーをタイマー設定でリロードしているとエラーメッセージが出た。

該当するユーザーはいません

「えっ、タヒぬことないじゃん?!」


すっかりスレ民と化した美衣から報告を受け、和名は慌てて「小説家でござるよ」にアクセスした。

NN21のマイページがあるべきURLに見当たらない。


【この会員は自主退会されています】


ただ、赤いエラーメッセージがむなしく記されている。


「た、倒したのか……な」


美衣は何とも後味の悪い空虚感にみまわれた。あれほどウザいと感じ古いかさぶたのように痒い存在だったネオ文豪21がネットがら去った。古傷を掻くと癖になるものだ。気づけば治すより傷つけることに没頭している。痣を鋭い爪でえぐり新しい擦過創をつける。

くすんだ肌に並行する鮮血、滴り落ちる赤い滴。新鮮な痛覚と出会う喜び。

NN21は満身創痍の日常に変化とメリハリを与えてくれるインフラだった。痛いのは判ってる。犯罪者でも極悪人でもない、ただ生意気なだけのキャラクターにどんな罪があるというのか。とんでもない悪事に加担したかもしれない。

美衣の表情が強張る。和名も察したらしく「と、とにかく絵師を馬鹿にする勘違い野郎は死んだのよ!」。

必死に勝利を正当化して自分を保とうとしている。

「戦いに勝ったけど、わたしたち人間として、どうだったのかな?」


美衣はただ液晶画面を見つめるだけだった。

それから一週間、NN21の行方は、ようとして知れない。














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