黒原麻耶

「未成年の黒原麻耶もフリーターのお前も融資以前の問題だ。保険金目当ての自殺は審査が面倒だ。そして必ずバレる。本当は誰の名義だ」

浜口刑事は容疑者三人を疑心暗鬼の目線でねっとりと絡めとる。

すると呉井は慇懃無礼な態度に出た。「刑事さん。黙って聞いてりゃさっきからフリーターフリーターって…お持ちの固定観念、賞味期限切れですよ」

「なんだと?」

売り言葉に買い言葉。浜口の血圧があがる。無知はなかなか受け入れがたいものだ。特に男は年齢とプライドが学びの邪魔をする。

呉井は年間二千億円を回収する債務整理大手の契約社員だった。一時間に数十本の案件を捌く繫忙部署だ。人の出入りも激しい。コロナ失業で食い詰めたシングルマザーが先入れ先出し方式で辞めていく。鬱病で精神障害者手帳を発行された者もいる。そんなオペレーターの負担を軽減するサポーターがいる。「話にならん!上の者を出せ」という定番メニューに呉井達が答える。LEDが灯ったらヘッドセットを被り「はい、上司です」と声を震わせる。クレーマーの大半は返済能力に問題がある人物ばかりで論理や常識が通じない。呉井は不安定な業種で荒波を渡ってきた経験を活かしトラブルを解決していた。

「近頃は家賃滞納に苦しむオーナーさんが増えましてね」

そういう物件を債権回収の仕事がら有利に融通できる立場にある。そして非正規とは言え平均所得がある。

「俺は本気だったんだ」、と悲しそうに締めくくると刑事が口をへの字に曲げた。

「ところがまゆこは死んだ」

浜口は麻耶に念を押す。

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