証拠物件
容疑者二人を挟んで机の上にプリントアウトが所狭しと並んでいる。そして所々に蛍光ペンが塗ってある。「まゆこ」と「まゆこ【さん】」
人称に揺らぎがあるのはなぜだろう。
「白田まゆこさんを虐めてたのは私です、うう」
セーラー服の少女は机に突っ伏した。
「絵文字のリンク機能を教えたのも、
浜口は押収したアクセスログをひけらかした。そこには絵文字MayuyunS2021が目まぐるしく再定義される様子が記されている。タップ一つで舐め愛リストから通話相手を選択できる。
「呉井さんの方から声をかけてきたんです。いきなり『舐め愛外』から来た時はびっくりしましたけど」
黒原は堰を切るように話し始めた。まゆこのアカウントは学校が連絡用に発行したものだ。呉井が舐め愛リストを渡り歩いて麻耶へたどり着くのも自明の理だった。
「まゆこが邪魔だった?」
女刑事が軽蔑する。
「そんな単純な話じゃない」
呉井によると、麻耶なりに呵責を感じていたらしく、まゆこの現状を介して関係修復の糸口を探っていたようだ。呉井は呉井でややこしい女同士のもめ事解決に麻耶の力を借りたかったようだ。
それで、まゆこに内緒で麻耶をチャットに招待していた。ダイレクトメッセージを誤爆してもリカバリーできるように「まゆこさん」と名乗って参加していた。
「本当は三人で和解の場を設ける予定だったんです。まゆこさんにサプライズで」
麻耶は真剣な面持ちで証言した。
「周到に準備してた。まさか、昨日呼び出されるとは思わなかったよ。まゆこ本人にな」
信じられない、と尊の顔に書いてある。
「わたしが白田さんを殺したんです。何もかもバラしました。尊さんとのやりとりも……」
黒原は言葉を詰まらせた。
「最後に呉井のアカウントにログインして、まゆこをブロックした」
浜口はまるで汚物を扱うようにアクセスログを片づけた。
「パスワードはどうやって?」
女刑事が首をかしげる。
「俺が教えたのさ。何かあった時の為にって。迂闊だった」
呉井ががっくりとうなだれた。
「あたしが悪いんです。自分よりも少しだけ自慢できる立場にいる人を許せなくって」
黒原麻耶は尊に惚れていたというのだ。
「ハッ!笑わせるな」
浜口がマンションの契約書類を投げつけた。
「略奪婚だと?!黙って聞いてりゃ笑わせやがって!!ローンの返済金はどっから出てくるんだ?」
「まゆこさん……亡くなってるわよね?」
婦警は赤い瞳で容疑者たちをねめつけた。
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