第4話 とどめ
「東京町田にクルマを買いに行ったときのとどめ」
忘れたくても忘れられない4月18日の金曜日の午前2時のことでした。
予定の4時間遅れで、やっと米子インターに到着して「でめたし、でめたし」となるはずでしたが、このままでは終わらないのがワシの人生のいいところです。
ようやく米子インターを下りてバイパスみたいな道路を松江方面に向かっておりました。やっと着いたという安心感からでしょうか、眠気がピークに達し、このままどこでも運転しながらでも寝られそうな危ない状態で走っておりました。深夜の丑三つ時ですし、山陰ですし、他に走っている物好きもいなくて、道路は貸し切り状態ですごく快適でした。ついでに頭もトリップしていて、すごく快適でした。ワシは窓を開けて、のんびりのんびり走っておりました。夜風が気持ちよくて、走り切った達成感もここちよくて、途中で見た王子製紙工場の灯りもきれいでした。山陰にも夜に稼働している工場があるなんて知らなかったものですから、その謙虚な美しさに心惹かれていました。その時なぜか、近いうちにまた深夜にこの工場の灯りを見に来るような気がしましたが、そんなこと絶対にあるはずがないので無視して先を急ぐことにしました。(その後現実になる。)
島根県に入ったのでバイパスを下りて国道9号線に入って、今夜の寝床を探すことにしました。本当に眠い。この時間ですからまともな宿なんかあるはずがないので、そのへんの超安いモーテルかなんかに入って寝ようと思っていました。そんなわけで、トコトコ走りながら探していたのですが、モーテルよりも先に深夜営業のガソリンスタンドを見つけてしまいました。ワシはなぜか、吸い寄せられるようにそのスタンドに入っていきました。給油機の横にスターレットをつけると、事務所から眠そうなおっちゃんが出てきました。
「軽油満タンお願いします。」
「満タン入ります。」
おっちゃんは、ゴボゴボと給油を始めました。メーター半分ぐらいだから20リットルぐらいで、1000円ちょっとぐらいだと思っていました。(当時軽油はリッター60円ぐらいでした。)そのうち満タンになり、計量器のデジタルメーターは「22,8リットル」を示していました。「1200円くらいじゃなあ。」と考えたワシは、千円札と小銭200円を用意しました。
「2020円ですね。」
といいました。この「2020円」という数字は、20年経った今でもはっきり覚えています。
「2020円。ゴロがいいですね。2020円。2020円?えーっつ!2020円ですか?高くないですか。」
思わず言ってしまいました。そもそも山陰はガソリン価格がたいそう高いところです。最近は慣れてあまり驚かなくなりましたが、それにしても高い。リッター100円くらいじゃあないですか。ワシはいくら考えても計算が合わないので確認しました。
「高くないですよ。レギュラー22,8リットルで2020円。ねえ」
「そうですか?レギュラー22,8リットルで2020円ねえ。レギュラー・・・。
レギュラー?おじさん、軽油にもレギュラーってあるんですか?」
「あるわけないですよ。ガソリンですよ。ガソリン。」
「っておじさん。このスターレットはディーゼルですから軽油です。軽油。」
それからお互いの時が止まり、ことの重大さに気づいた二人は固まってしまいました。ガーン。
ガソリン車に軽油を入れるとエンジンがかからない。ふむふむ。逆にディーゼル車にガソリンを入れると、エンジンがぶっ壊れると何かで読んだ気がします。エンジンかけなくて良かった~、なんて言ってる場合じゃあありません。頭も体も疲れとってもう何も考えられませんが、たいへんなことになったということは事実です。どうするん。
それからが大変でした。そのおじさんは、どうやら深夜だけのアルバイトみたいで、明日朝にならんとどうしようもできないと平謝りです。ドレンからガソリンを抜いてごっそり入れ替えるしかないそうです。ワシはそんな話を半分寝ながら聞いていました。それからおじさんを責めても仕方がないので、確認せんかったワシも悪いと思ったので、それからこのおじさんも大変だろうと思ったので、しかもワシはとっても小心者なので「いいですよ。」と言うしかありませんでした。というかもう極限まで疲れていたので、何も考えることができなかったのだと思います。
とりあえずガソリンスタンドのソファーを借りて寝ることにしました。気持ちがええソファーじゃなあと思うまもなく、爆睡していました。最高に気持ちのいい眠りだった記憶しています。
スターレットは、動かせないので、計量器の横につけたままでした。ごめんね。スターレット。最後の最後でこんな目にあわせてしまって。
なんか知りませんけど長い長い一日がやっと終わりました。おやすみなさい。
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