常時接続に毒された女ども
常時接続に毒された女どもはさっさと帰ってしまった。入れ替わりに待ち客が席に着く。今度はラフな格好をした男性連れだ。片方はチェック柄のシャツをだらしなく着こなしている。見るからにオタク青年と言ったいでたちだ。吐息だか含み笑いだかわからない不明瞭な言葉を呟いている。ひかえめなイージーリスニングが茶色い声に遮られる。オーナーはそれを咎めるでもなく、空いたテーブルに二人を案内した。オタク君は席に着くなり沈黙した。そして、あわててポケットをまさぐってスマホの電源をオフにした。
”これでいいんだよな?”
彼は怯えた目つきで相方に無言の承認を求める。すると、オーナーがにっこりと微笑みながらメニューを差し出した。
「どうぞご遠慮なく。当店はお食事と会話をお楽しみいただく場所です」
あとは言うまでもないという風に睨みを効かせる。すっかり縮んでいるオタク君を横目に連れの男は酒と料理をオーダーした。静かな店内にはいくつかのグループがいるが、インスタ映えなどといった不作法な行為を企てている客は一人もいない。他の迷惑にならない程度の音量で取り留めないお喋りを交わしている。SNSが普及した時代に失われた隔絶感や非日常がただよっている。
「これぞ、THE 隠れ家って感じだよな」
男はグラスに酒を注いだ。イベリコ豚の赤ワイン煮が運ばれてきた。
蛇蝎のごとくハイテクコミュニケーション手段を忌み嫌うレストラン。
「タベルナ・ベント」
謎は深まるばかりだ。それとも味わい深いそれこそが、メインディッシュなのか?
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