だんぼーるって何ですか?
クラゲ
だんぼーるって何ですか?
「いやーそれにしても流行ってますね、だんぼーる」
気の強そうな司会者がそう言うと
「そうですねー、うちの娘もだんぼーるに夢中でねー」
うさん臭そうなコメンテイターがそう言った。
テレビを見ている僕は思った。
だんぼーるって何?
お母さんに聞いてみた
「だんぼーるって何?」
「お父さんに聞きなさい」
お父さんに聞いてみた
「だんぼーるって何?」
「大人になったらわかる。そんなことより早く歯を磨いて寝なさい」
しょうがないから
さぶろーに聞いてみた
「だんぼーるって何?」
「にゃー」
だんぼーるって何?布団の中で思った。でもどうしてこんなにむなしいのだろう。
明日学校で聞いてみよう。
隣の席のけーくんに聞いてみた
「だんぼーるって何?」
「あれだよ、あれ、あれだよ、あれなんだよ」
話にならないので
のっぽのたけちゃんに聞いてみた
「だんぼーるって何?」
「えーうーん、じょーちゃんに聞いたら?」
すすめられたので
博識メガネのじょーちゃんに聞いてみた
「だんぼーるって何?」
「ふむ、だんぼーる、えーと、とりあえず先生に聞いたほうがいいよ」
またすすめられたので
担任の竹先生に聞いてみた
「だんぼーるって何ですか?」
「えっと、多分英語だと思うから僕じゃなくて西先生に聞いたら」
英語らしいので
根暗な西先生に聞いてみた
「だんぼーるって英語なんですか?」
「えっ、経済の言葉じゃないの」
そういうことらしいので
社会の田中先生に聞いてみた
「だんぼーるって経済の言葉なんですか?」
「そんな言葉ないけどなー、国語の先生に聞いたら」
よくわからなくなってきて
国語の竹先生にまた聞いてみた
「だんぼーるは英語でなくて、経済の言葉でもないらしいです」
「えー絶対英語だと思うけどなー、辞書引くか」
辞書を引いて
「先生ないです。だんぼーる」
「噓でしょ、……本当にないじゃん、……分かったぞこの辞書古いんだよ」
新しい辞書をさがして
「先生、ないですね新しいの」
「ちくしょう何でこの学校四十年前の辞書しかないんだ!いいかげん買い替えろよ」
ちょっと考えて
「先生、最初からこうすれば良かったのでは?」
「まぁ確かに最初からコンピューターを使えばよかったかもしれない。しかし、国語の教師としては辞書を引く経験を生徒に与えたかったんだよ」
検索してみて
だんぼーる|
だんぼーる 生物
だんぼーる 食べ物
だんぼーる 爆発事故
だんぼーる 何語
「先生、これはいったい」
「なんでだ!どうしてこんなにだんぼーるの認識が違うんだ?だんぼーるって何なんだ!」
しばらくして
「先生、結局だんぼーるって何なんでしょう」
「不服だがこれは僕には手に負えない、この道のプロに聞こう。今日はあきらめだ、明日は休みだが返上してもらう。一緒に会いに行くぞ、十二時に正門集合だ」
家について
「お母さん、明日竹先生となにかのプロの人に会いに行くよ」
「まぁ、明日の塾はどうするの?」
お父さんが
「いいじゃないか、せっかく元気そうになったんだから」
何かが足りない自分の部屋で
結局今日も分からずじまい、虚しさも増した。でも明日には解決しそう。
「だんぼーるって何?」
「にゃー」
車に乗って
「それで先生、その道のプロって誰なんですか?」
「あらゆる言葉に精通した専門家の雨野先生だ。国語に身を置く者の誰もが知っている」
暇なので
「先生、ラジオつけていいですか」
「かまわないけどもうすぐ着くよ」
ラジオつけて
「にしてもねだんぼーるがね甘えてくんのよ」
番組変えて
「今日はとてもだんぼーるなかんじで」
番組変えて
「だんぼーると叫ぶ集団が今国会を占拠しているそうです。現場は今大変だんぼーるです」
寒気がして
「先生、いろいろおかしいです」
「一体全体どうなってんだ!少なくとも先週はこんなんじゃなかったはずだぞ。だんぼーるって何だ!」
到着して
「先生、ここにその雨野さんがいるんですか?」
「あぁ、にしても羨ましいな雨野先生こんなでかい家に住めて」
ひょろっとした人が出てきて
「やあ君らが竹先生とその生徒さんだね、よろしく私が雨野だ。何ならこっちから会いに行こうと思ってたから助かるよ」
僕をじっと見るので
「何か?」
「いや、…やっぱりね。まぁとりあえず入って」
部屋は活字だらけで
「それでだんぼーるって何なんですか?」
「だんぼーるはな梱包やら包装、箱にして使ったりする強靭な板紙だ。階段の“段”にカタカナで“ボール”、全部カタカナで表記することもある。何ならあの本棚の下にあるよ段ボール。多分まだ段ボールって思えないだろうけど」
話は続いて
「ではなぜ世の中で段ボールを知らない人や変な使い方をしてる人がいるんでしょう?」
「そのことにはね確信をもって言うけど君が原因だと思うんだよ。最近段ボールのことをとにかく忘れようとしたでしょ」
なぜかドキッとして
「…え?」
「今ドキッとしたろ、君が段ボールが何かちゃんと思い出したら世界も元に戻るだろうよ」
先生が口をはさんで
「雨野先生、流石に突拍子もないですよ。段ボールがあの本棚の下の茶色いやつなのはまだ理解できますよ。でも何故原因がこの子なんです?」
「まぁその反応は分かるよ。まずね言葉ってのはね、ただの印字や音じゃないんだ。生きてるって表現があってるかは置いとくけど生きてるんだ。呼吸したり動いたりしてる分けじゃないけどね」
「それで、たまにいるんだ言葉に近い人間、言葉と深い部分で繋がっている人間がね。私やこの子、竹先生もそうなんだけど言葉の良い力を引き出すこともできる、でも逆に言葉を無理やり忘れたり消そうとしたりすると普通の人以上に言葉を刺激してしまう。そしてその言葉はいったんはじかれるが、戻ろうとする力の影響で本来あり得ないところに入り込んだりするのさ」
なぜか悲しくて
「雨野さん、僕はどうすれば」
「心当たりがあるだろう?そのことを焦らなくていい、ゆっくりでいいから思い出すんだ。君に非はない」
車の前で
「雨野さんありがとうございました。ところでそのどうして僕が原因だって思ったんですか?」
「実を言うと私も君くらいの年に経験があってね、まぁピンと来たってやつだよ。君が初めてってわけじゃない、……良ければいつでも遊びにおいでよアポなしでいいから」
車の中で
「……先生、……思いだしたかもです」
「あぁ僕も段ボールが何か思いだした。全く変な経験だったよ段ボールが何かわからないってのは」
家の前で
「先生、どうしてか家に入りたくないです」
「大丈夫さ……進みなさい」
やっぱりさぶろーは家の何処にもいなかった。さぶろーが足りない部屋の机の上には古い段ボール箱、さぶろーがずっと使っていたやつ。
僕はそれを抱えて日が沈んでいくのを見た。
「さぶろー段ボールってこれだったよ」
どこか遠くでも近い場所から聞こえた。
「にゃー」
だんぼーるって何ですか? クラゲ @dennkihituzi
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます