作家(ハリケーン)だましい

自称「作家」のハリケーンは字面から受ける印象とは正反対のデブおやじだった。頭頂部が薄くなっており、糖尿病の疑いがあるという。そこから対面者の気をそらせるためか、とにかくよくしゃべる。

彼が言うにはナポリタンの評価システムは、釣り糸を垂れるようにのんべんだらりと投稿する者にこそ冷水を浴びせるシステムだ。

誰かが読んでくれればいい。おひねり感覚でポイントをくれればいい、などと甘い考えをしていると痛い目にあう。

評価点の合計を評価者の数で割る。すなわち平均点で評価がなされる。

たとえば最初に10点満点をもらって浮かれていると、後から9人がこぞって0点をつける。すると平均点が1になってしまう。さらに0評価が延々続くといくら高得点を得ようと焼け石に水だ。

そして、平均点が異常に低い作品には寒色系のバーが表示される。

「お前の作品はどれもこれもつまらんというお墨付きだよ。そんな駄作の一覧、誰がクリックする?」

ハリケーン氏は嫌そうに言う。

確かにこれは堪える。もともと小説を書くような人種は神経が繊細で臆病で自己評価が低いわりにプライドが高い。

お前の小説は0点以下だと言われれば、オカラで出来た筆はぽっきりと折れてしまう。


「しかもだ、作品の出来具合と作者の人格を結び付けて攻撃する輩がいるらしく、これに耐えろとという方が無茶だ」

「免疫のない人はどうなるんですか?」

「削除するに決まってるじゃん。いつまでも黒歴史置いとけるかよ」


なるほど、そういう事情だったのだ。

美幸は深い闇の奥底に一条の真実を見出した。しかし、それは光ではない。何か引っ掛かる点があった。

それはともかく、腑に落ちないながらも、数え切れない無念が聞こえてくる。

心血を注いだ作品はどれもこれも満を持す出来栄えだったはずだ。少なくとも作者自身にとっては。傑作と信じて世に問うのだ。でなければ、なぜに人の目に触れようか。失意のまま撤去に追い込まれた作者の心中はいかばかりか。


しかし、心のどこかでしきりに異を唱える誰かがいる。

そいつは「おかしい」と叫ぶ。

小説は低評価されたら撤去しなければならないのか。優秀な作品しかネットに存在してはいけないのか。それでは誰のための小説だ。

当たり前のことだが、作品は作家自身のものだ。誰にも棄損されるいわれはない・

「これが私の小説だ」と開き直ればいいだけのことだ。


そのような旨を美幸は主張した。

ハリケーンは弱々しく笑った。

「そんな甘っちょろい文学少女チックが通用する世界じゃねえんだよ。酷評の嵐など右から左へ聞き流せ、という陳腐な檄も的を外している」


彼が言うには作家に忍耐を強要することは無神経と言わざるを得ない。攻撃する側を利することにつながり、ますます読者を増長させる。


「被害妄想が過ぎませんか。それに応援してくれる読者だっているはずです。お気に入りゼロとかだったら目も当てられないですけど」



「低評価の集中する作品には、それなりの数のお気に入りがついている。もはや底辺とは呼べない桁数のお気に入りだ。しかし、崩壊していく作者のメンタリティーを繋ぎとめるほどの力はないらしい」


ハリケーンの作品群はお気に入りがどれも三桁を超えている。また彼の知り合いが4桁のお気に入りを擁しながら、たった数十件の低評価のために作品を取り下げたという実例もあるという。


「そんなの無視すればいいじゃないですか。4桁のお気に入りってすごい。更新を待っている人を裏切るんですか」

「お前は何もわかっちゃいないんだな……」


美幸の正論をハリケーンは感情論で応じた。

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