嵐のうみ

水原麻以

嵐の予感

「あれ?」


長嶋美幸はいつものようにログインして、すぐ異変に気付いた。


小説投稿サイト「ナポリタン」の新着情報にお気に入りの作品がない。更新予定時刻はとうに過ぎている。毎日更新がウリの異世界開拓物でそこそこ人気がある。


「あれっ? 作者急病のためって奴? めっきり寒くなったからね」


美幸はよくあることだと思った。



ところが活動報告を見て驚いた。



「低評価のため作品を削除させていただきます」


不人気を理由にブクマした人々を切り捨てるのか。


「癖になるほど好きだったのに」

いきなり日課が消えた。同時に不満が募る。


「その程度の熱意だったのかしら」


失礼とは思いながらもDMを送ってみた。


《未読メールが1件あります》


秒で返事が来た。相手も悶々としている。

美幸はドキドキして開封した。

信じがたいが理路整然として腑に落ちる説明だ。


同時に深い闇を知った。



オンラインの明るい部分で生きてきた。携帯ショップでしぶしぶ作った決済専用カード。リスクは最小限だ。

指先殺人や詐欺は対岸の火事だと甘く見ていた。ところがネットは作家に牙を剥く。

モチベーション狩りが流行っている。筆を折った仲間は多いという。



そのことに関して議論を深めるため、美幸はメッセージの相手に直接会うことにした。

見知らぬ人と遇うリスクとモチベ狩りを放置する危険を天秤にかけて後者を撮った。


その日の午後から冷たい雨が降っていた。幹線道路から外れたカフェレストラン『タベルナベント』はガランとしていて、客は二人しかいなかった。

テラスから見晴らす海は荒れている。

ダージリンティーの二杯目が運ばれてきた。


「以前から、低評価されただけで作品を削除する作者の多さに疑問を感じていました。1点は1点だ。ドンと構えていればいいと」


美幸はそれが作家の正義だと信じていた。人気作家のWEB連載が公式サイトでタダ読みできる時代。玉石混交の素人小説は目にとめて貰えるだけでも感謝すべきだろう。



「ところがそうではないんだ、君は大きな勘違いをしている。評価は5点が普通でそれ以下は事実上のマイナス評価になるんだ」

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