罠の真意
「ご主人様!」
抜け道経由で離宮の前まで戻ってきたら、フィーアがこっちに向かって飛んできた。
そして、私の後ろにフランと王子が並んでいるのを見て、急ブレーキで止まる。
「……ご主人様?」
「離宮で立ち往生していたところを、王子が助けてくれたの」
にっこり微笑みかけると、フィーアはこくこくとうなずいた。
これ以上ここで説明できない、という意図をくみ取ってもらえたようだ。さすが長年の側近、話が速い。
「クリスティーヌ様と、タニア様は」
「無事よ。でも、怪我をしたから、ふたりとも医務室に預けてきたわ。そっちの状況は?」
「シュゼット様たちは宰相派から派遣されてきた騎士の護衛のもと、全員で別室に待機しています。一時興奮していましたが、今は落ち着いています。怪我もありません」
「そう……あの子たちを守ってくれてありがとう、フィーア」
お礼を言われて、フィーアが唇を噛む。
橋が落とされた時、私のそばに行けなかったことを後悔しているんだろう。でも彼女が人命救助のために、ぎりぎりまで動いてくれたのは知っている。
だから私は彼女にお礼しか言わない。
「シュゼットにも顔を見せて、安心させてあげたいわ。案内してくれる?」
「……こちらです」
踵を返すフィーアについていく。その後ろから、王子とフランもなぜかついてきた。
世話役のフランはともかく、なぜ王子まで。
「王宮じゅうの給湯器が使えなくなったんだよね。ますます、シュゼット姫をこの国に留めるわけにいかなくなったな」
「馬車の準備が整い次第、キラウェアに出発させる予定です」
「設備のない王宮にいるより、街道の宿に泊めたほうがマシだろうしなあ。寝床はそれでいいとして、彼らの手荷物はどうするかな。全部燃えてしまったんだろう?」
「幸い、荷物のほとんどは馬車に積み込んでいました。燃えたのは土産物の類ばかりだったので、あとで早馬に届けさせれば、事足りるでしょう」
しかも対策会議まで始めるし……。
いや、いいですけどね!
考えないといけないことだから。
「こちらのお部屋です」
少し歩いたところで、フィーアがドアのひとつを示した。
賓客用の休憩室らしい。ノックしてドアを開けてもらうと、留学生たちが固まって座っているのが見えた。わたしはことさら元気な声を出す。
「ただいま、シュゼット! 見事脱出してきたわよっ!」
少女たちがいっせいにこちらを向く。
しかし、その中に見慣れたブロンズ色の髪は見当たらなかった。
「あれ……離席中? トイレにでも行った?」
「……え?」
留学生たちはお互いに顔を見合わせた。
「姫様……あれ? いない?」
「どこに行ったのかしら」
「全員でこの部屋に案内されてから……えっと……?」
全員、ぽかんとした顔でメンバーを確認しあう。まるで、今の今までシュゼット姫の存在を忘れていたかのように。
「あなたたち、シュゼットを最後に見たのは?」
「えええ……っと、えええ?」
「橋が崩れた時にはいましたわよね?」
「フィーアさんが、全員を確認して……それから……?」
彼女たちは涙目で私たちを見る。
「わかりません……いつから、姫様がいなかったのか」
ぞわ、とまた背筋が粟立った。
ぞくぞくと悪寒がはい登ってくる。
「あなたたち、記憶がはっきりしないのね。まるでそこだけ夢を見てたみたいに」
「……はい」
彼女たちはいっせいにうなだれた。
大切な姫君のことを一時でも忘れた自分たちを責めているんだろう。
でもそれは彼女たちの責任じゃない。
「やられた……!」
私は王子とフランを振り返った。私と同じ結論に達したらしい、フランの眉間にはくっきりと皺が寄っている。
「リリアーナ嬢、何が起きているんだ?」
「シュゼットが誘拐されました。犯人は、アギト国第六王子ユラです」
こんな警備のど真ん中で、仲間に気取られずに姫君を拐うことができるのは、邪神の化身以外にない。
王妃たちの目的は私の命だけじゃなかった。
離宮に警備の目を向け、その間に戦争の火種となる姫君を手中におさめたのだ。
「シュゼットを探して! 外国人のあの子には、王家や勇士七家のような女神の加護はないわ。彼が直接手を下せるの」
あの子は大事な友達だ。
絶対に助けなくちゃ!!!!!
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というところで、クソゲー悪役令嬢王宮バトル編完結です!
さらわれたシュゼットの行方は? 傷心ヘルムートはどこにいるのか?
次章新たな展開を予定しています!
そして、またプロットねりねり&執筆作業のため、しばらく連載をお休みします。
再開をお楽しみに~!!
「クソゲー悪役令嬢」⑤巻発売中!
書籍版もよろしくお願いします。
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