3D眼鏡って向き不向きあるよね
「リリィ?」
スマートグラスをかけなおしながら、ヴァンがこっちに目を向けた。説明求むってことなんだろう。
「視界全体を使うせいか、体質的な向き不向きがあるのよ。眼鏡のテストをした時に、クリスにもかけさせたんだけど、すぐに気分が悪くなっちゃって」
「えぇ? そんなに?」
「私はむしろ、ソレをつけてはしゃげるヴァンが信じられない……」
クリスの顔は真っ青だ。初めてスマートグラスをつけた時のことを思い出しているんだろう。
「私も使ってみたけど、一時間が限界だったわ。それ以上になると頭が痛くなってきちゃうの」
現代日本でも、VRゴーグルやスマートグラスを使うと気持ち悪くなる、という人はいた。クリスはその中でも特に合わない体質だったんだろう。小夜子も3Dアクションゲームですぐに乗り物酔いみたいになってたから、その気持ちはわかる。
「宰相家のメンバーも、フランとマリィお姉さまはうまく使えてるみたいだけど、宰相閣下は合わなかったみたい」
「そんな風には見えねえけどな……」
ヴァンはスマートグラスを外すと、不思議そうにそのレンズを見つめた。
「体質が合うなら、いい道具だと思うわ。もちお、ヴァンとケヴィンにもスマートグラスを配布できる?」
『かしこまりました。ご自宅のお部屋にドローンで配達いたします』
「頼む。これがあれば、俺もじいさんの東部国境防衛戦に協力できるからな」
「ああ、その手があったわね」
ヴァンは騎士科で軍略を学んでいる。監視衛星を利用しながらクレイモア伯と協力できれば、東部防衛の大きな戦力になるだろう。
「俺もこれを使って北方のモンスター退治に協力できないか、試してみよう。指示を出せる人間が増えれば、それだけ宰相家の負担が減るはずだから」
「ありがとう~!」
ケヴィンの気遣いが心の底からうれしい。
「リリィたちのためだけってわけじゃないんだ。俺たちも国の危機に何かしたいって思うし」
「お互い『跡継ぎが危険地帯に来るな』って言われて、王都に足止めくらってたからなー」
領地が不穏な状況だっていうのに、ふたりが帰郷しなかったのには、理由があったらしい。
「安全な場所で情報を分析するだけなら、おばあ様も嫌とは言わないでしょ」
「うちのじいさんもな」
私は侯爵様たちを過保護とは思わなかった。
戦場は真実、人の命が消える場所なのだから。
「もちおのことだから、屋敷に戻ったらモノはもう届いてるだろうな」
「帰る前に、宰相家の執務室に寄ってみる? 使い方とか、情報の共有方法とか、フランドールさんと話しておいたほうがいいと思うよ」
「俺たちの立場じゃ、そう何度も王宮の中央まで来れねえもんなあ」
「じゃあ、ふたりを迎えるよう、私からフランにメッセージを送っておくわ」
「よろしくね」
「そのついでに、ちょっとお願いしたいがあるんだけど」
お願い、と言われてヴァンとケヴィンが身構えた。
ふたりとも、警戒しすぎじゃないの。
私がお願いって言いながら、ちょくちょく無茶ぶりをするのは事実だけどさー!
「大したことじゃないわ。フランに会ったら、彼の写真を撮ってきてほしいの」
「お前、あいつの写真なんかいくらでも撮ってるだろ」
「でも眼鏡バージョンはまだ見たことないの!」
「は?」
急に応接間の空気が冷えたのを感じる。
だけど、恋する乙女はそんなことで止まっていられないのである。
「スマートグラスを手配した直後に忙しくなっちゃって、結局眼鏡をかけたところを直接見てないのよ!」
この世界で眼鏡はめったに見かけない高級品だ。
つまり眼鏡そのものがレアシチュエーションなのである。
泣きボクロがセクシーで、瞳が鋭いフランが眼鏡をかけたら、きっと、いや絶対似合うに決まっている。
「お……おう?」
困惑するヴァンの隣で、ケヴィンが私に微笑みかける。
「わかった、必ず撮ってくるよ」
「ケヴィン大好き!」
眼鏡バージョンのスチル、ゲットだぜ!
=============
「クソゲー悪役令嬢」⑤巻発売中!
書籍版もよろしくお願いします!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます