お風呂タイム
「はあ……」
お湯に身を任せながら、シュゼットが大きくため息をついた。
王宮の贅をこらした浴室には巨大な浴槽が用意されていた。私たち三人どころか、十人入ってもまだ余裕がありそうなくらいの大浴場である。
ローゼリアたちはシュゼットをもてなすために、かなり頑張ってくれてたみたいだ。
そこに私とクリスまで入ってくるとは思わなかっただろうけど。
ざぶ、とシュゼットの隣に座ってから浴室の入り口を見る。私たちの体を洗い終わった侍女たちは名残惜しそうな顔でこちらを振り返りながら、浴室を出て行った。
三人だけでゆっくりしたいから、一旦出て行ってほしいというシュゼットのワガママに従わされたのだ。
「まさか、道理もわからない子供のフリをする羽目になるとは、思いませんでしたわ……」
さっきまでのふるまいを思い出したんだろう、シュゼット頭をかかえた。その顔が赤いのはお風呂に入っているからだけじゃない。
「いやいや、名演技だったぞ!」
私とは反対側に座りながら、クリスが笑う。私も笑った。
「身分の高い女の子の涙とワガママは、ある意味最強カードだからね」
「だからこそ、絶対に使うまいと心に決めておりましたのに! おふたりが必死に守ってくださってる中、あんなことしか言えなかった自分が情けない……」
「そんなことないわよ」
私はシュゼットの手を握る。
「言い返す手札が残り少なくて困ってたの。シュゼットが間に入ってくれて正直助かったわ」
認めたくはないけど、ローゼリアはやり手だ。
単純な口喧嘩では言いくるめられておしまいである。まだこちらのほうが立場が上で助かった。
「体を洗っている間も、まだ何か仕掛けようとしていたようだしな」
むう、とクリスが天井を睨む。
「あれね……。クリスの体を洗っていた侍女が『クリスティーヌ様は、子供のころからおへその隣にホクロがありましたよね?』なんて言い出した時にはどうしようかと思ったわよ」
当然の話だが、王宮にいたクリスティーヌと現在のクリスは別人だ。
成長途中で増えるホクロは双子でも全く同じにならない。
いとこ同士である彼らもホクロ位置は別のはずだ。
王宮の悪意の黒幕である王妃は、クリスとヴァンの入れ替わりの真実を知っている可能性がある。彼女に『クリスティーヌ』ではないことの証拠をつかまれたら、どう悪用されるかわからない。
「偶然同じところにホクロがあったからいいようなものの、さらに追及されたら大変なことに……」
「偶然じゃないぞ」
けろっとした顔でクリスが爆弾を放り込んできた。
「社交界デビューして、肌の出る服を着るようになったからな。ヴァンと私のホクロはふたりで『同じ』にしてある。だから私のホクロは追及しても無駄だ」
「は……?」
どういうことだよっ?!
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