スマホは検査ゲートをくぐる前にお預けください

「クリスティーヌ様、他にもまだ武器をお持ちなんですか?」

「いや、もう何もなかったはずだが」


 クリスはきょとんとした顔のまま、自分の服やポケットをぽんぽんと叩きながら確認している。私はあわてて、彼女のマントを引っ張った。


「もぉーしょうがないなあクリスは! 私がチェックしてあげるから、こっち来なさいよ」

「リリィ?」

「フィーア、あなたが先にチェックしてもらって!」

「……かしこまりました」


 別の検査対象を差し出しておいてから、クリスの体を引き寄せる。フィーアは持ち歩いている隠し武器の数が多いから、時間がかかるはず。


「私はこれ以上武器は持ってないぞ?」

「持ってるわよ」


 私はマントで体を隠しながら、クリスのポケットからスマホを引き抜く。


「それは武器じゃないような」

「あのゲートが検出してるのは、『武器』じゃなくて『金属』なの。スマホは表面が強化ガラスになってるからそんな風に見えないだろうけど、中にはぎっちり金属部品が詰まってるわ」


 空港のゲートをくぐる前に、スマホやキーホルダーを一旦預けさせられるアレである。

 何事かと近づいてきたフランに、自分とクリス、ふたりぶんのスマホを押し付けた。


「持って、離れてちょうだい」

「おい」

「王妃派に『超技術の詰まった板』の存在を知られるわけにいかないでしょ」


 多くの新発明を生み出してきた私の持ち物は、王妃たちに注目されている。護身用の魔法薬はともかく、スマホはダメだ。もちろん、ユーザ登録とか顔認証とか、他人に使わせないためのロックをかけてあるけど、そもそも盗まれて弄り回されるような状況を避けたい。


「だがな」

「ここで押し問答してたってしょうがないし」


 私は顔色の悪いシュゼットを見る。


「どっちにしろ、お風呂と着替えは必要よ。これ以上シュゼットを消耗させられないわ」

「……」

「フランとジェイドが別行動になるのは、もともと想定の範囲内よ。男ふたりをお風呂やトイレにまで連れていけない」


 だからこそ、宰相閣下は私とクリスを彼女につけたのだ。


「私たちは大丈夫。これを持って、行って」


 フランは私の目を一瞬見つめたあと、大きなため息をついた。


「……わかった。一旦別行動をとることにする。だが、離れたままになるつもりはないからな」

「当然よ」

「いいか、お前が使える武器はなんでも使え。ためらうな。……そして、自分の力では手に余る、と判断したら空の見える場所に全員で逃げろ。後始末はどうとでもしてやる」

「心強いわね」


フランに笑い返す。

 彼がどうとでもするというのなら、どうとでもしてくれるんだろう。

 いざというときの切り札を持たされることほど、心強いものはない。

 私は、顔を上げると、悪意に満ちた笑顔を浮かべる女官たちのもとへ向かった。

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