魔力式金属探知機
『武器発見機』とは、私がアイデアを出し、ジェイドとアルヴィン兄様が作り上げた新システムだ。ゲートを通すだけで、金属製の武器を持っているかどうか検査することができる。現代日本では空港なんかでよく見かける、いわゆる金属探知機と同じものだ。
『電磁誘導』という物理現象で金属を検知するマシンに、魔力隠蔽技術は意味をなさない。武器の発見を魔力探知に頼っていた、ファンタジー世界の住民にとって、まったく異次元の技術である。検知のメカニズムをいまだ理解していない者たちからは、神の門として恐れられていた。
商売人な兄様が、王宮に売り込んで導入させたとは聞いていたけど、まさかこんなところでお目にかかるとは思わなかったよ!
「確かに、ソレは優秀なシステムだがな……」
金属探知機が有効なのは、その先に安全が確保されている場合だけだ。
敵の根城の入り口に置かれているソレは、私たちを無理やり武装解除させる悪魔の門に他ならない。まずい、こんなところで持ち歩いている武器を発見されるわけにはいかない。
「まずはクリスティーヌ様、どうぞこちらに」
「あ、おい!」
いくら鍛えてるからって、非武装の女官相手に手をあげるわけにはいかない。ローゼリアに手を引かれて、クリスはゲートをくぐらされた。そのとたん、ピー! とけたたましいエラー音が廊下に響き渡る。
「あら? どうしてこんな……」
「コレが反応したんだろう」
クリスは、羽織っていたマントをばさりと翻した。腰にさげている剣があらわになる。
「まあ……。いやですわ、淑女がそんなものを持ち歩くものではありませんよ」
「嫁ぎ先が武勇を貴ぶ騎士の名門だったのでな。コレは私の新しい趣味だ」
「姫君がなんと恐ろしい……クレイモア伯がなんと言われるか」
「笑って許すさ。この剣をくれたのは、当のクレイモア伯だ」
まさかクレイモア伯爵とあろう者が、孫の嫁にそんなものをプレゼントしているとは思わなかったらしい。ローゼリアの笑顔が初めてひきつった。
クリスは懐からもう一振り短剣を取り出す。
「ちなみにこっちは、婚約者のヴァンからもらったものだ」
「辺境伯家は、女子になんてものを贈ってるんですか……!」
でもなー。
クリスが喜ぶプレゼントっていったら武具か馬具か肉だぞ。
あのふたりは、彼女の趣味をよく理解してると思う。
「えええっと……そのような危険物については、こちらでお預かりさせていただいて……」
「断る」
シュゼットの護衛という裏任務を持つクリスは、指示を秒で拒否した。
「しかし、規則としても淑女としても、それは」
「ええー? あなた、女子から婚約者とそのご家族に贈られたプレゼントを取り上げるの?」
私がわざとらしく口を挟んだら、翡翠の瞳で睨まれた。
美人がすごんだ顔も怖いね。でもその程度でひるむ私じゃない。
「災害にあったうえ、婚約者と引き離されて心細いでしょうに!」
「いやそれとコレとは……」
「不安よね、クリス!」
「あ、あー! ヴァンがいないと不安ダナー! 剣を持ってないと落ち着かないナァー!」
かなり大根演技だけど、及第点だろう。姫君のワガママに押されて、ローゼリアが引き下がる。
「わ、わかりました……! では、剣は一旦こちらでお預かりして、ゲート通過後に返却させていただきます。通過する間だけならよろしいでしょう?」
「返してもらえるなら問題ない」
クリスは腰の剣と、短剣をローゼリアに渡した。
「一旦預けたら武器の持ち込みOK」の言質、とらせていただきました! この勢いでフィーアの隠し武器の持ち込みと、私の魔法薬の持ち込みを許可させてしまおう。
改めて通過しようとして……ピー! とまたけたたましいエラー音が廊下に響いた。
「ん?」
「あら……今度は何に反応したのでしょう」
ローゼリアも、クリスも不思議そうな顔になる。
その後ろで私はぞっと背筋が粟立つのを感じていた。
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