押し問答
覚悟があったところで、いざ困難を目の前にぶら下げられたら、気持ちが萎えるのはしょうがない話で。
目の前でにこにことほほ笑む女官を見て、私は即座に逃げ出したい気分になった。
いや、逃げんけど。
「この先は男子禁制となっております。お二方はお引き取りを」
この場にいる女官を束ねる立場にあるらしい、濃い蜜色の髪に明るい翡翠の瞳をした女性は、ローゼリア・シュヴァインフルトと名乗った。お仕着せのエプロンドレス姿の女官たちと違い、彼女だけ一段仕立てのいいドレスを着ている。
彼女はそろそろ日も暮れようかという王宮に到着した私たちを見るなり、早速チームの分断を図ってくれていた。現在のターゲットは、頼れる男手ふたり。フランとジェイドだ。
「私は父よりシュゼット姫の警護も任されています。おそばを離れるわけにはまいりません」
フランが青い瞳で鋭くローゼリアを睨む。イケメンの怒り顔、めちゃくちゃ怖い。しかしローゼリアは表情を一切変えずにフランを睨み返した。
「この先は湯殿となっております。いかな理由があろうとも、男性が立ち入ることは許されません」
「こちらも離れることは許されていない。無事が確認できる距離に立たせてもらう」
「まあ、なんてこと」
ローゼリアはことさら芝居がかったびっくり顔をしてから、こちらを振り返った。
「シュゼット姫様、クリス姫様、お待たせして申し訳ありません。この融通のきかない男をさがらせたら、すぐにお風呂ですからねぇ」
ちょっと待てそこの女官。
その言い方だと、フランたちが入浴の邪魔をしてるみたいじゃないか。
「女子寮がなくなって、体を洗う余裕もなかったのですよね? キレイな御髪がほこりでくすんでしまっていますわ。たっぷりお湯を使って頭の先からつま先まで、汚れを落としましょう。……この不埒な男どもがいなくなってから」
「不埒とはずいぶんな言いようだな」
「これから湯に入ろうという女子から離れようとしないんですもの。不埒以外の何だとおっしゃいますの?」
「あなたこそ護衛騎士を何だと思っている。私たちが警護対象の体を見ることはない、状況を察知できる程度の距離に立たせろ、と言っているだけだ」
「だから、その距離がここなのです。お引き取りください」
「却下だ。遠すぎる」
ローゼリアが私たちを案内しようとしている通路は、かなり先まで奥が続いている。どう見ても、何かあったときにすぐ駆けつけられる距離じゃない。フランたちが立ち去ったあとにどこまで連れていく気やら。
「この奥に武器を持った賊が入り込んだらどうする」
「まあ、そんなこと起こりませんわ!」
私たちを害する気満々のローゼリアはわざとらしく驚いた顔になった。
「この廊下の先へと踏み入ろうとする者は、すべてこちらの『武器発見機』にて調べられますので。賊など入りようがありませんわ」
ローザリアが廊下の入り口を指し示す。
言われてみれば、そこだけ門のような造りになっていた。検査と警備担当なのだろう、ローゼリアの後ろに控えていた女官数名が、装置を起動させる。
「さあさあ、姫様たち! こちらへどうぞ」
行けるわけないだろうがっ!
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