無自覚疲労
「通信機が必要な用事は終わったから、女子生徒と合流しましょうか」
通話を終了させた私は、後ろに座っていたクリスを振り返った。
生徒のまとめ役ポジションのはずなのに、呼び出されて席を外してばかりだ。ある程度落ち着いてきたことだし、ここからはしっかり働かないと。
「ん……」
てっきり一緒になって気合をいれてくれると思った友達は、なんとも歯切れの悪い返答をする。不思議に思って顔を見たら、顔もぼんやりしていた。眼の焦点も微妙にあってない。
「クリス?」
「あー……すまない。リリィは先に戻っててくれないか、ちょっと頭がくらくらするんだ」
「それ、ちょっとって言わないわよ」
元気で健康が取柄のクリスがぼんやりしてるなんて異常事態だ。ただの疲れだけならいいけど、感染症だったら大変なことになる。
私はクリスの額に手を当てた。
「熱はなさそうだし、顔色もそこまで悪くないけど」
「んー」
「すぐにディッツを呼びにいって……」
ぐうううう……。
クリスの状態を細かく確認しようとした私たちの耳に、とてつもない音が聞こえてきた。多分、クリスのお腹のあたりから。
「あれ?」
「ん?」
私たちはお互いに顔を見合わせた。静かに控えていたフィーアが、ごほんと咳払いする。
「……失礼ながら、クリス様のめまいは空腹によるものではないでしょうか」
「あっ」
よくよく考えてみたら、私たちは全員、地震でたたき起こされてから走り回りっぱなしである。その間に、食事をした記憶も、水を飲んだ記憶すらない。めまいくらい起こしても不思議じゃない。
「空腹とめまいの区別がつかなくなるとは……どうかしてるな」
自分自身の状態が信じられなかったのか、クリスが目も目を丸くする。
「非常事態で緊張しっぱなしだったもの、しょうがないわよ」
アドレナリンの過剰分泌で、空腹感や疲労感がわからなくなっていたんだろう。
災害現場とか、緊急事態ではたまに聞く話だ。
「お水を飲んで、少し何かお腹にいれましょ。食事と休憩をとれば、落ち着いて感覚が元に戻るはずだから」
「わかった、そうする」
今はたいしたことないけど、疲労と空腹は免疫力を低下させる。丈夫なクリスでも、このまま放っておいたら、倒れて大変なことになるだろう。
「問題は、この状況で食べ物が残ってるかってとこよね」
地震が揺さぶったのは図書室や医務室だけじゃない。食堂だってかなり揺れたはずだ。火事こそ起きてないけど、中は棚から落ちてきた食器類でぐちゃぐちゃのはずだ。まともに料理ができるとは思えない。
「その心配はなさそうですよ」
フィーアがネコミミをぴくぴくと震わせた。すん、と軽く何かにおいをかぐ仕草をする。
なにを感じ取ったのか、彼女は廊下に出ると私たちを案内して歩き始めた。
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