ハイテク機器のアナログ対応
『私が直接ハルバード侯に通信機を渡すのは無理だな。お互い、持ち場を離れられない』
少し考えてから、宰相閣下は首を振った。
「おふたりとも、災害救助の指揮をとられてますからね」
『だからといって、部下に運ばせるのも不安だ。この混乱している状況では信用に足る者があまりに少ない』
汚職騎士の粛清と行政改革のおかげで、かなりまともになった王宮だけど、まだまだ王妃派の貴族つまりユラの息のかかった人間は多い。この混乱に乗じてどんな暗躍をされるかわかったものじゃない。そう思えば、宰相閣下の警戒は当然だ。
『……これは、勇士の末裔であれば誰でも持てるのか?』
しばらくして、宰相閣下がたずねてきた。私は首を横に振る。
「いいえ。勇士の末裔で、さらに私かセシリアが許可した人だけが持てます。……なので、同じ勇士であっても、ランス伯やヘルムートにはお渡ししていません」
『いい判断だ』
宰相閣下は満足げにうなずく。そして、にやりと笑った。
『では、娘のマリアンヌはどうだ?』
「マリィお姉さま! それなら大丈夫だと思います!」
そういえばそうだった。
マリィお姉さまも、私やフランと同じ勇士七家の末裔だ。十分スマホを持つ資格がある。
そして、宰相閣下が信頼する有能跡取でもある。
『災害が起きる前から、マリアンヌには後継として仕事を手伝わせていた。私の名代として、ハルバード候を訪問しても不自然はないだろう』
「わかりました。もちお、スマホとアクセサリーを二台分用意して、マリアンヌお姉さまに届けてちょうだい」
『かしこまりました』
画面の中で、白猫がこくりとうなずく。あとはもちおがいい感じに調整してくれるだろう。
「ありがとうございます、閣下」
『これは私にとっても益のあることだ、礼にはおよばない』
「元は父が野生児すぎるのが原因なので……それと、もうひとつお礼を申し上げたいことがあります」
そう言うと、閣下は不思議そうな顔になった。
私は一旦フィーアにスマホを持たせると、背筋を伸ばしてからカメラに向かって丁寧にお辞儀する。
「地震にそなえ、街を整備し、避難所を設置してくださったのは閣下だと、フランから聞きました。ありがとうございます、閣下のおかげで王立学園の生徒が救われました」
避難所の設置を進言したのはフランだけど、実際に予算を確保して全ての手配を整えたのは宰相閣下だ。彼こそが私たちの命の恩人と言える。
私の後ろでクリスもまた頭をさげた。
『それも感謝の必要のないことだ。そもそも、身分の上下に関わらず民全てを救うのが宰相家の役割だからな。……だが』
ふと、宰相閣下が優しくほほ笑む。
『私のしたことで君たちが助かったのなら、これほどうれしいことはない。生きていてくれてよかった』
「はい、本当にありがとうございました!」
『できるだけ早いうちに、学園にも正規軍を救助に向かわせる。それまで、持ちこたえてくれ』
「まかせてください、私たちは結構強いので!」
『いつもながら君は頼もしいな。わかった、学園の生徒たちをよろしく頼む』
私たちはお互い笑顔で通話を終了した。
さーて、あとは助けが来るまでふんばるとしますか!
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