ホットライン
もちおに命令すると、すぐにスマホの表示が切り替わった。
ギュスターヴ・ミセリコルデと宰相閣下のフルネームが表示されて、コール音が鳴り始める。おなじみの動作だけど、ファンタジー世界で体験するのは、違和感が大きすぎてなんだか居心地が悪い。
「思ったより時間がかかるな」
なんとなくじっと黙ってたら、待つのに飽きたっぽいクリスがそんなことを言い出した。
「私たちと同じ事情なんじゃないかしら。宰相閣下も、部下から離れてこっそりアイテムを使うとなったら、段取りが大変だと思うし」
『……現在、王宮側の簡易指揮所を移動中です』
「思った通りの状況っぽいわね。もちお、こっそり音声通信だけできるアイテムってない? 目立たないイヤホンとかマイクとか」
『作戦活動用のワイヤレスイヤホンマイクであれば、ご用意が可能です』
「やっぱりあるんだ?」
スマホの画面が切り替わって、ワイヤレスイヤホンがいくつか表示された。
身に着けるタイプの通信機は昔からあるから、管制施設に用意されてるのは自然な話なのかな。
「じゃあ、それも人数分改めて配布してちょうだい。できるだけ目立たないデザインで」
『かしこまりました。……あ、先方と繋がるようです』
もちおがつぶやいたかと思うと、また画面が切り替わった。
インカメラを不思議そうにのぞき込む、上品なおじさまの姿が表示される。フランの父、宰相閣下だ。災害対応で走り回っていたせいだろう、いつもきっちり整えていた髪は少し乱れていて、服も全体的に煤で黒く汚れていた。
私は自分のカメラを確認してから、にっこりと淑女の微笑みをうかべる。
「お久しぶりです、宰相閣下」
『ああ……リリアーナ嬢、君か。元気そうな顔が見れてよかった。クリス様も』
「ご無沙汰しています」
私の後ろで、クリスも軽く頭を下げた。
疲れてはいても、気力は尽きていないらしい。宰相閣下はいつもの落ち着いた理知的な笑みをこちらに向けてくれた。
『顔を見て無事を確認できてよかった。受け取った時は面食らったが、思った以上に便利な道具だな、これは』
「ぜひお役立てください」
『ありがたく使わせてもらうよ。……それで、何かあったのかな? 君のことだ、何の意味もなく連絡してこないだろう』
「お話が早くて助かります」
私は素直に頭をさげた。
理解のある大人に感謝だ。
「父に関することです。実は、閣下にお渡ししたスマホと同じものを、父に届けようとしたのですが」
『ああ、私もこれでハルバード候と連絡を取り合えたら、と思っていた。それで?」
「その……ドローンを父のところに派遣したら、撃墜されてしまって」
『げきつい』
閣下が真顔になった。
その気持ちはわかります!
「父にスマホを渡す方法について、相談させてください」
『……わかった』
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