城門
王立学園の建物はそもそも、教育機関として作られたものじゃない。
地下に管制施設があることからわかるように、空中母艦『乙女の心臓』を支援する施設として建てられたものだ。数百年の間に新たな街道ができて戦略的な意味がなくなったあと、建物を再利する形で学校として生まれ変わった。
だから、この学校にはあちこちに戦闘用の砦としての機能が残されている。
学園そのものをぐるりと取り囲む城壁と、大門がその最たるものだ。
「避難民が門に近づいてるからって、そんなに慌てなくてもいいんじゃないか?」
一緒に走りながら、クリスがのんきなことを言うのはそのせいだ。
高さ五メートルほどの分厚い城壁に埋め込まれるようにして作られた門は重厚で、ちょっとやそっとのことでは開けられない。それこそ、攻城戦用の兵器でも持ち出さないかぎり破壊できないだろう。
城壁自体も高さがあって、外に張り出す構造になってるからそう簡単によじ登れない。
この堅牢なつくりも、貴族用の学校として採用された理由のひとつだ。
「門は災害対応ルールにそって、騎士科生徒が厳重に閉じていたはずだ。猫の子一匹入れないよ」
「私は攻撃を恐れてるわけじゃないの」
「おい、門の上に誰かいるぞ」
ヴァンが視線を上げる。門の上部にゆらゆらと動く人影が見えた。
現代日本人が『門の上に人』と聞いたら「何故?」と首をかしげるかもしれない。でも、王立学園は日本の住宅街の門とは全く別物。西洋の堅牢なお城とその門だ。門の両脇は石造りの壁で固められ、それぞれに見張り用のやぐらがある。当然、内側からやぐらに上がるための階段だってついている。
避難民に気づいた騎士科の生徒たちが、やぐらの上から様子を確認しているんだろう。
「登ってるのは……って」
メンバーを確認しようとした私は、思わず絶句してしまった。
右往左往する生徒たちの中心に輝く、キラキラの金髪。そして、くすんだアッシュブラウンの髪。間違いない、王子とヘルムートだ。少し離れてケヴィンのふわふわの銀髪も見える。
周囲に大人の姿はなかった。
学園内のことで手一杯の教師にかわって、高位貴族の彼らが指揮をとっているんだろう。
異変に気付いてすぐに対応する、行動力があるのはいいことだ。
でも、避難民の集団みたいに、イレギュラーなものが来たときには、下手に自分で動かずに、大人を頼ってほしいかな!
ゲームのプレイヤーとして、この先に起こりうる悲劇を知っている私は心の中で悲鳴をあげた。頼むから、何もしないでいただきたい。
「助けてくれ!」
門の側に来たところで、向こう側から本物の悲鳴が聞こえてきた。
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