緊急事態

「もちお、何が起きたの!」


 私は立ち上がってナビゲーションAIに命令した。

 長机の上に白猫が姿を現す。


「王立学園に、正体不明の一団が近づいてきています」


 ぱっ、と壁のスクリーンが切り替わった。

 ドローンが映したらしい映像が表示される。同時に、長机の地図も王立学園周辺の拡大地図へと変わった。そこには追加情報として、ドローンの撮影位置と、不明な一団の現在位置が記されていた。


「もう学園の目の前だな」


 さっと位置関係を確認したフランがつぶやく。

 私はモニターに視線を移した。

 奇妙な集団だった。

 服装はばらばら、というよりちぐはぐ。下着や寝間着に何かを羽織った格好の人が多い。服自体の質はあんまりよくないし、髪や手も荒れ気味だ。そして全員あちこち煤けていた。

 年齢層もばらばらで、女性や子供を男性が中心になってひっぱってる感じだ。


「全員貴族ではなさそう……王都の庶民街に住んでいた市民かな?」

「火事で焼け出されて、避難してきたようだな」


 彼らは体力のない子供たちをかばいながら、ゆっくりと移動する。目指しているのは、明らかに学園だった。


「申し訳ありません、悪意ある武装集団ではなかったので、発見が遅れました」

「まずいわね」


 さっきとは別の理由で心臓が早鐘を打ち始める。

 この状態は危険だ。

 黙って見ているわけにはいかない。


「フラン」

「わかっている、先に行け。俺は着替えてから追いかける」


 最後にもう一度だけぎゅっとフランの手を握ってから、私は管制施設をログアウトした。


「ヴァン、クリス!」


 鏡の前に出ると、ふたりが緊張した表情でこちらを振り返った。


「なにごとだ? 急にスマホってやつが鳴りだしたんだけど」

「王都からの避難民が学園に向かってるわ」


 私はスマホにドローン映像を映しながら説明する。

 ヴァンからスマホの説明は受けていたんだろう、クリスは驚くことなくその映像を見つめる。


「王都は火事だからな。逃げ出す奴は出るか」

「すぐに対応しなくちゃ、手遅れになるわ」

「わかった。フランドールは……」

「ご主人様!」


 話していたら、荷物を抱えたフィーアが走りこんできた。


「いいタイミングね、フィーア! わたしたちは大門に行くわ。フランに服を渡したら、あなたも一緒に追いかけてきて」

「かしこまりました」

「行きましょう!」


 フィーアに指示を出してから、私たちは走り出す。ここから、学園の正面入り口である大門までは少し距離がある。がんばっても、門に着くころにはすでに避難民が到着しているだろう。


「面倒ごとになってなきゃいいけど」


 しかし、だいたいそういう嫌な予感は的中する。


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