王子様の奮闘
「落ち着くんだ!」
やぐらの上から王子が責任者として避難民に声をかけた。すぐに怒りまじりの声がかえってくる。
「子供じゃ話にならん。大人の責任者を出してくれ!」
「先生方は、他の対応で手いっぱいだ。話なら俺が聞く」
「あんたが?」
「俺はハーティア国第一王子、オリヴァー・ハーティアだ。お前の話は俺の責任の届く範囲で聞き届けよう」
ざわざわ、と避難民たちが騒ぎ出す。
「あーいーつーはー……」
私の横でヴァンが頭を抱えた。
「王子がほいほい身分を明かしたうえに、聞き届けようとか宣言するなよぉ……」
「まだ権限の届く範囲、って言ってるだけマシじゃない?」
指導者として、責任をとる姿勢は必要だけど、彼が責任の範囲以上のことをしかねないのが怖い。はらはらしている間に、王子を交渉相手として認めたらしい避難民たちが要求を口にし始めた。
「王都で火事が起きたのは気づいてるか?」
「ああ、こちらからも煙が見えていた」
「なら話は早い。俺たちは住む家を焼かれて逃げてきたんだ。全員着の身着のままで、食料も金もなく、今日寝る場所もない。どうか保護してもらえないか?」
案の定、彼らの目的は身の安全の確保だったようだ。
女性のものらしい、高い声が重なる。
「子供がいるの。少しだけでいいから休ませて」
「お腹すいたぁー!」
その後はもう、誰も順番なんて守らなかった。
何十人も集まった人々は口々に要求を王子に向かってぶつける。私の立っている門の下からじゃ詳しいことはわからないけど、きっと外は大変なことになっているんだろう。
「そうか……」
対応する王子の声が震える。
管制施設内で見たドローン映像によれば、彼らは言葉通り着の身着のままだ。全身真っ黒にすすけて、ありあわせの服をどうにか身にまとっている姿は、憐れを通り越して恐れを感じる姿だろう。
「わかった、すぐに対処しよう。誰か門をあけ……」
「お待ちなさい!」
王子が指示を言い終わる前に、私は無理やり声を挟んだ。
門の外を見下ろしていた王子がぱっとこちらを振り向く。
「リリアーナ嬢?」
「門を開けてはいけません」
私は一歩前に出た。
これは絶対に止めなくちゃいけないことだから。
「何故だ? 市民の保護は、貴族、いや王族としての務めだ」
「ですが、それは力ある者だけが行うこと。今の私たちには無理です」
「おい誰だか知らねえが、姉ちゃんは口をはさまないでくれるか? 王子様だってんなら、国で一番力を持ってんだろ?」
持ってないよ。
言うとややこしくなるからつっこまないけど。
「リリアーナ嬢、ここには人を収容する建物も、食料の備蓄もある。彼らを助ける余裕はあるはずだ」
「それでもダメです。物資だけでは人を助ける余裕とは言わないんですよ」
「あんた、俺たちを見捨てるってのか!」
野次馬の声に、王子の顔がさっと青ざめる。
私が言いたいのはそういうことじゃないのに。
「助ける力がないって言ってるの」
私の言葉に、避難民たちが騒ぎ出す。
王子は門の内と外、私たちと避難民を見比べる。彼の肩をケヴィンがそっと抑えた。
「君もか?」
「俺も全部理解してるわけじゃないけど、彼女がああ言う時は必ず理由がある」
「オリヴァー、一度降りてこいよ」
ヴァンも声をかけた。
「う……」
「王子様、俺たちを助けてくださいよ! 女の意見と目の前の怪我人、どっちが大切なんだ!」
「……!」
直接助けを求められて、王子の顔色が変わる。
避難民たちは口々に叫び出した。
「助けて!」
「私たちを助けられるのはあなたなんです!」
「見捨てないで!」
王子は門の外を振り向く。そしてその下に広がる後継を食い入るように見つめた。
「俺は……彼らを……」
「王子」
もう一度声をかけようとした時だった。
黒い人影が私の横を駆け抜けていった。影は、恐ろしい勢いでやぐらに駆け上ると、王子の体をひっつかんで、門の内側に放り投げる。
「門は開けるな、絶対にだ!」
フランの低い声が響き渡った。
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