サテライト

「リリィ?」

「お前いきなりどうしたんだよ」


 突然騒ぎ出した私を見て、恋人と男友達が目を丸くする。

 ふたりが若干引いてるっぽいけど、今はそれどころじゃない。

 人工衛星が運用されてるって、それどんなファンタジーSFだよ。


「ええと……月が、丸い地球の周りを回ってる衛星なのはわかる?」

「ジェイドが重力魔法を開発している時に……そんな話を聞いたような」

「いやお前ら何言ってんだ。この地面が丸いとか正気か?」


 フランがうろ覚えの物理知識を口にして、ヴァンがそれを真っ向から否定した。君たちはそこからかぁー!


「えーと、こっちの壁に映ってるのは、ものすごーく高いところから、すっごい技術を使ってハーティアの国土を直接写し取った画像なのよ」

「すっごい高いところ? 北にある霊峰とかか?」

「……詳しい話はあとで、もちおにレクチャーしてもらって」


 私は早々に説明するのを放棄した。

 彼らの知識どうこうの問題じゃない。積み重ねた常識が違いすぎるんだ。

 私の技術でひとくちに説明するのは、無理!


「えーともちお……ちなみに、その人工衛星って、写真をとるやつだけ?」

「監視衛星のほかに、観測衛星が5基、航行衛星が10基、通信衛星が7基、通信ネットワーク用超小型衛星が172基現存しています。五百年前はこの三倍の衛星が存在したのですが」

「打ち上げから五百年も経ってるのに、三分の一でも生き残ってるほうがすごいわよ。観測衛星は、地上の様子を記録してるとして……通信衛星とかがあるってことは、衛星通信とかGPSが使えるってこと?」

「はい。空中母艦『乙女の心臓』を運用するには、必須の機能ですので」

「戦闘機をいくつものせた、めちゃくちゃ大きな飛行機を飛ばすようなものだもんね。それくらい用意するのが当然かあ」


 これはいいことを聞いた。あとで利用できそうだ。


「状況はわかったわ。もちお、王都を中心に壁の画像を拡大してもらえる?」

「かしこまりました」


 返事と同時に、表示されていた衛星写真の解像度が変わった。


「このへんは王宮か? まあ絵が見れるなら、理屈はどうでもいいけど」

「だがこれでは……」


 フランがひっそり眉をひそめる。

 映像の大半は、真っ黒で詳細がわからなかった。


「この黒いのは、火事の煙よね」

「はい。監視衛星は真上から王都をとらえておりますので」

「煙のせいで、何にも見えねえな」


 ヴァンも顔をしかめる。私はもう一度もちおを見た。


「もちお、監視カメラとか……王都の様子を直接見る機能とかってないの」

「監視カメラは、王宮地下の『乙女の心臓』関連施設内にしか設置されていません」

「なるほど、そうなるのね。王宮そのほかは、空中母艦が封印されたあと、人間の手で作られたわけだから……。何か、代わりになる機能はある?」

「管制施設内に、偵察ドローンが50機保持されています。使用しますか?」

「あるんだ? ドローン」


 もうなんでもアリだな!


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