指令室へようこそ

 私は改めて、フランの姿を確認した。

 ゆったりとしたユニセックスなデザインのローブだったから違和感がなかったけど、彼が着ているのは明らかに女性教師ドリーの服である。


「特に今日は、この格好で女子寮や避難所を歩き回ってたものね。すぐに同じだってわかっちゃうか」


 生徒と違って、教師たちは全員私服だ。関係ないはずの彼らが全く同じ服を着ているのは、あきらかにおかしい。


「変装バレのリスクは避けたい。できれば着替えたいが……」

「ディッツの研究室まで、こっそり移動するのも危険よね」

「研究室には着替えがあるんだな?」


 話を聞いていたヴァンが口をはさんだ。フランが頷く。


「だったら、フィーアに取りにいかせればいいんじゃないか。あいつなら、人目を避けて行って帰ってくるくらい、できるだろ」

「あ、そっか」


 フィーアは隠密特化型の護衛だ。

 黒猫に変身できる『ユニークギフト』も併用すれば、誰にも気づかれずに服一式持ってくるくらい朝飯前だ。

 クリスがさっと踵を返して、出入口に向かう。


「だったら、私が知らせてこよう。フィーアが服を取りにいってるあいだ、代わりの見張りも必要だろうし」

「ありがとう、クリス!」

「システムがどう、とか細かいことを考えるよりは、敵を警戒するほうが楽だからな。気にするな」


 仮にもお姫様を見張りに立たせるってどうなの、とは思うが、能力を考えたらこれが適材適所だ。ここは素直に頼っておこう。

 彼女がログアウトしていったのを見届けてから、私たちは改めてもちおに向き直った。


「さて……フランの姿が変わってたから前後しちゃったけど、ここに来たのはもちおにお願いがあるからなの。外で大きな地震があったのは、知ってるわね?」

「はい、認識しています」

「被害状況を詳しく知りたいの、使える機能を提案して」

「かしこまりました。では、オペレーションルームにお入りください」


 もちおが言うと扉のうちのひとつ、いかめしいデザインの扉がぼんやりと光った。扉の前にも、『指令室』と文字が浮かび上がっている。

 こういうところはいちいちゲームっぽい。運命の女神の趣味だろうか。


「こっちに入ればいいんだな?」


 ヴァンが早速ドアを開けて入っていく。私たちもあわてて後を追った。

 中に入るなり、私は思わず足を止めてしまう。

 そこはファンタジー世界風の会議室だった。内装は落ち着いたシンプルなデザインで、中央に十人くらいで囲んで座る長机が据えられている。


「えええ、何これ」


 びっくりしている私を見て、ヴァンとフランが怪訝そうな顔になる。


「何って、いかにもな作戦指令室だろ」

「王宮の騎士団作戦室も、似たような内装だが」

「いやだって、オペレーションルームっていったら、もっとこう、SFっぽい感じだと思うじゃない!」

「えすえふ?」


 ますます怪訝そうな顔をされてしまった。

 くっ、ジェネレーションギャップならぬ、ワールドギャップがつらい。


「リリアーナ様はともかく、ヴァン様とフランドール様は、機械的なデザインに馴染みがありません。適応しづらいと判断して、一般的な指令室をモチーフとさせていただいております」


 ド正論である。

 SFにロマンを感じられるのは、SFを摂取して育った現代日本人だけだからね。

 人間誰だって慣れない環境で新しいことを覚えるのはストレスになる。できるだけ慣れ親しんだ形で提供するのが筋だろう。


「とはいえ、機能までアナログではありません」


 とっ、と白猫が長机の上に飛び乗る。同時に、机の上には大きな地図が浮かび上がった。このデザインは見覚えがある、王都を中心としたハーティア国の地図だ。


「それと、こちらを」


 もちおが壁のひとつを振り仰ぐと、壁一面がモニターに変わった。こちらには地図ではなく地上を直接真上から撮影した風景画像が表示される。

 それを見てフランの眉間にぎゅっと深い皺が寄った。


「これは、ハーティアの……国土か?」

「衛星写真っぽい雰囲気ね」

「……リリアーナ様のおっしゃる通り、監視衛星から撮影した画像になります」

「あるの? 人工衛星!」




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