強制変身解除

「フラン? その格好大丈夫なの?!」


 私たちはぎょっとしてフランを見た。フラン自身も変化に驚いたみたいで、自分の体をしげしげと見降ろしている。


「特に不調は感じられないが……もちお、俺はログイン前女性の姿だったはずだ。男になっているのは何故だ?」

「ユーザーはこちらのインターフェイスへ、肉体によらず魂だけでアクセスしています。アバターは体の状態に関わらず、システムに認識されている姿で表示されます」

「なるほど、俺の魂が男として登録されているからか」

「これはこれで不思議ね」


 しばらくこっちの姿は見られないと思ってたから、ちょっと嬉しいけど。


「リリィも他人事じゃないだろう。こっちで見る姿はやっぱりちょっと大人みたいだ」


 クリスが苦笑する。

 そういえば、私自身『フランの女』として登録されてるから、フランと釣り合いの取れる二十代バージョンなんだよね。


「ここにいるのは、あくまでアバターだから本体に影響はない、ってことでいいのかしら」

「はい。あ、……いいえ、少々お待ちください」


 もちおは不穏なことを言って、急に動きを止めた。

 不自然な硬直の裏で、何かを処理しているっぽい。頭の上に「Now loadng」とかキャプションが出そうな風情だ。


「もちお?」


 その不気味な沈黙やめてくれませんか? 嫌な予感しかしないんだけど!

 三十秒ほどの停止のあと、もちおは申し訳なさそうに頭をさげた。


「……お待たせいたしました。申し訳ございません、肉体保存処理の都合で、強制的に魔法薬の効果を解除しておりました」

「え」


 強制解除って何だ。


「俺の体を男に戻したのか?」


 さっとフランの顔色が変わる。

 彼はこの非常時にも関わらず『あと数時間は戻れない』って言ってた。つまりそれだけ副作用が深刻だったってことだ。東の賢者の弟子として、私もそれがどれぐらい危険かは理解している。

 下手したら、フランの体は……!

 私たちの剣幕に驚いたのか、白猫はあわあわと前脚をあげる。


「大丈夫です、落ち着いてください。肉体の変質解除は、こちらの処理機能で行いましたので、肉体へのダメージはありません。……念のため、二十四時間は性別を変えないほうがよいと思われますが」

「体に負担はないのね?」

「はい」

「だったら最初からそう言いなさいよっ! もおおおおおお、驚かさないで!」

「申し訳ありません!」


 心臓に悪い白猫は全力もふもふの刑に処してやる! どうせ本物の猫じゃないから、乱暴になでても問題ない。虐待される猫は存在しないのだ。


「まあ、かえって都合がいいんじゃねえか? 今は男のほうが動きやすいだろうし」

「その意見には同意だが、ひとつ問題があるな」

「副作用なしで変身解除してるんなら、それでいいだろ」


 フランは苦笑しながら自分の服をつまむ。


「世話役フランが、女教師ドリーのローブを着てたら変だろ」

「あ」


 性別変更薬はあくまでも肉体に作用する魔法だから、衣装はそのままだったね!



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