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私たちを心配そうに振り返る王子に向かって、ヴァンはひらひらと手を振った。
「俺たちは、既に安否確認されてっからな。残ってここの後始末してから行く。変な鏡しかねえっていっても、隠し部屋を一般生徒に見せるわけにいかねえだろ」
「だったら俺も……」
戻ろうとした王子を、ケヴィンが慌てて引き留める。
「君が戻らないと、生徒の捜索が終わらないよ。今は一秒でも早く本部に合流して、全員救助活動に集中させてあげないと」
「わ、わかった」
「行こう!」
王子たちが去っていくのを見送り、彼らが図書室を出たのを確認してから、私は大きなため息をついた。
「あ~びっくりした……」
「まさか隠し部屋の中から、王子が出てくるとは思わなかったな」
下手にしゃべるとボロが出ると思ってたんだろう、ずっと黙りこくっていたクリスが口を開く。
「隠し部屋については、図書室への出入りも含めて偽装する必要があるな」
本棚の陰から、ドリーが顔を出す。彼女に至っては王子たちと話す間、完全にその姿を消していた。勇士七家の末裔とその従者はともかく、一介の女性教師が隠し部屋の秘密に関わっているなんて、王子たちに気づかれるわけにはいかないからだ。
「普段は図書の貸し出しを装えばある程度ごまかせるが、災害で混乱している中、わざわざこんなところに足を運んでいては目を引いてしまう」
「今回は鏡しかみつけられなかったみてえだけど、それ以上のことに感づかれたら面倒だよな」
「……本当に、それだけなのでしょうか」
フィーアが訝し気に王子たちが去っていった方向を見やる。
「だと思うわ。元は王族か勇士七家の末裔なら入室可能な設定だったけど、昨日ダンジョンを脱出した時点で、私かセシリアの許可した人間じゃないとアクセスできないよう変更しておいたから」
触れたところで得られるものなど何もない。変な鏡があるだけだ。王子はそもそも接近すらしなかったようだし。
「ここしか出入口がないってのが一番の問題だよな。何かいい手はないのかよ?」
ヴァン話を振られて、私は首を振る。
「そこまではわかんない。中に入ってもちおに直接たずねたほうがいいと思うわよ」
「わかった、ちょっと行ってくる」
ヴァンが隠し部屋へ続く階段を降り始めた。本当に管理AIもちおに会いにいくんだろう。
「フィーア、この場所を軽く隠して見張りをお願い」
「かしこまりました。お気をつけて」
護衛に指示を出してから、私たちも階段を降りる。王子が見つかったから、捜索自体は必要なくなったけど、それ以外にも、やってほしいことはたくさんある。
魔法の鏡にアクセスして、仮想空間にログインすると、昨日とは別の場所に通された。
薄暗いダンジョンではない。広くて明るい、大きなお屋敷の玄関ホールのような場所だった。普通のお屋敷と違うのは、壁一面にデザイン違いのドアがずらりといくつも並んでいることだろう。
「また、変なところに出たな。これもバグってやつか?」
私の後に入ってきたクリスがきょろきょろと周囲を見回す。先にログインしていたヴァンも、物珍しそうにあたりを観察していた。
「これが正しい処理よ」
「ユーザーは、まず最初にこのロビーを訪れていただく仕様となっています」
私たちが入ってきたのを知って、ブサカワ系ぽっちゃり白猫が姿を現した。
「目的ごとに、対応する扉にアクセスすると、専用ルームに遷移します」
「なるほど、この奇妙なドアは目的をわかりやすくするためのアイコンなのか」
最後に聞きなれた低い声がロビーに響いた。
「えっ……?」
振り向くと、男の姿のままドリーのローブを着たフランが立っていた。
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