なんでもアリ

「ドローンのモデルはこちらになります」


 もちおのすぐ横に、ファンタジー世界には不似合いな、機械的な物体が出現した。大判の本くらいのサイズの四角い黒い箱には、いくつものプロペラがついている。ぶうん、と音をたててプロペラが回りだしたかと思うと、その四角い箱は指令室内を飛び始めた。


「なんだ、これ」

「こっちの言葉で言うと、空飛ぶ使い魔、かな? 箱にレンズがついてるでしょ? ここに人間の目にあたる機能があって、見たものをこっちのモニターに表示させてくれるのよ」

「このドローンが撮影している映像をお見せしましょう」


 もちおがそう言うと、壁の映像が切り替わった。衛星写真のかわりに、指令室の様子を映し始める。今飛ばしているドローンが映した映像ってことだろう。


「えーと、いきなり50機全部出すのはもったいないから、とりあえず王都に20機派遣して。この王立学園の周りにも3機出して、周りを警戒して。見つからないように」

「かしこまりました」


 もちおがこくん、とうなずくと壁の映像が切り替わった。

 画面が細かく分割され、別々の景色を映し始める。これはドローンが見ている映像なのだろう。


「すげ……」


 展開についていけないらしい、ヴァンが茫然と壁を見つめている。


「GPSが使えるってことは、ドローンの現在位置もわかるのよね?」

「こちらに出します」


 長机に表示されていた地図の映像が変化した。ドローンの現在位置らしい、赤い点が王立学園を中心にいくつも記される。


「よし、これで王都の様子がわかるわね」

「便利なのはいいが、少し困ったな」


 地図と景色を見比べていたフランが眉をひそめる。画期的な技術のどこに問題があるというのか。


「この映像は、指令室でしか見れないんだろう。隠し部屋が国家機密である以上、勇士七家の者しか中に入れない。この状況で、高位貴族の中心人物が図書室にこもりきりなのは、都合が悪い。外に連絡する手段が限られるのも問題だ」

「今でも、外にクリスを見張りに立たせてる状態だもんね。状況がわかっても、指示が出せないのは困るわよね……」


 隠し部屋を発見した王子の件もある。

 ここを頻繁に出入りしていたら、いつか王子以外にも発見されてしまうだろう。

 いずれ『乙女の心臓』を動かす時には、何人も騎士を入れることになるだろうけど、それはずっと先の話だ。


「では、こちらの通信端末をお使いください」


 もちおは、ごとごとごとっ、と立て続けにみっつ、黒い板を私たちの前に出現させた。大きさは、私の手のひらにちょっと余るくらい。つるりとした外観の無機質な機械だ。

 めちゃくちゃ見覚えのあるアイテムである。

 私はそのひとつを手にもつと適当なボタンを押した。

 黒い板のガラス面が明るくなる。しばらく待っていると、画面にアプリアイコンが並んで表示された。


「汎用通信計算装置です」

「スマホじゃん!!!!」


 本当に何でもアリだな!


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