公開羞恥プレイ
「恥ずかしいいいいいいい……」
IDを統合して、正式なパーティーメンバーになった私は、あまりの恥ずかしさに絶叫していた。
開いたメンバーリストには、名前欄に「リリアーナ・小夜子・ハルバード(フランドールの恋人)」と、はっきりくっきりしっかり表示されている。
ミドルネームよろしく小夜子の名前が挟まっているのはまだいい。
小夜子も私だから。
でも、この『(フランドールの恋人)』まではいらない。
事実だけど、わざわざ名前欄に書く情報じゃない。
「統合処理が無事終わったんだから、いいんじゃないのか?」
何が悪いのかわからない、という顔でフランがわざとらしく首をかしげる。
そりゃー独占欲拗らせてるフランにしてみたら、恋人が自分の名前を掲げてるのは嬉しいだけかもしれないけどね?
この名前はダンジョン内に限らず、管制システムでも、『乙女の心臓』でも使われる。このままだと巨大空中母艦に乗ってる間、ずっと『(フランドールの恋人)』ってラベルをつけて歩くことになりかねない。
なんだよその公開羞恥プレイは!
「もちお……名前の変更ってできる?」
「データベースに登録されたID名は変更できません」
ユーザーを区別するための名前だもんねー。
コロコロ変えたら困るよねー。
「う、うーん……うーん……じゃ、じゃあ、画面に表示される名前だけ、変えることってできる? データベースはそのままでいいから」
通信プレイゲームとかで使うプレイヤー名みたいなものだ。他人と名前がかぶってもいいように、IDとは別の名前を設定できることがよくある。
「表示名の変更は可能です」
「やった! リリアーナ・ハルバードに変更して!」
「かしこまりました」
すぐに名前欄が切り替わった。
恥ずかしい括弧書きが消え、私は安堵に肩を落とす。
「よかったああ………」
ため息をついている私の肩に、ばさりと上着がかけられた。さっきまでフランが着ていたものだ。
「その格好で前かがみになるな。見えるぞ」
「胸のあいてるドレスになったのは、フランのせいでしょうが!」
「さっきから気になってたんだけど、どうしてリリィだけそんな格好なの? 雰囲気もなんだか大人っぽいし」
ケヴィンが恐る恐る尋ねてくる。私はもう一度ため息をついた。
「フランの女なせいね。私っていう魂の定義に、フランの主観が混ざっちゃってるのよ。このドレスと見た目は……多分、フランの中の理想の私……かな?」
もちおにお願いして、すぐそばに鏡を出現させる。
改めて確認した私の姿は、二十歳くらいまで成長していた。この姿は見覚えがある。闇オークション潜入のために変身した時のものだ。
フランが私を恋愛対象として見るきっかけになった事件でもある。
彼の中では、あの時の私の姿が強烈に焼き付いているんだろう。
私もこの姿は嫌いじゃない。
でもダンジョン内でする格好じゃないのも確かだ。
「もちお、『お着換え』機能を解放して」
「かしこまりました」
私が命令すると、メニュー画面に新たな機能が追加された。
「何を始めるんですか?」
セシリアがきょとんと首をかしげる。
「着替えよ。さすがに胸のあいたドレスでダンジョン攻略なんかできないわ」
メニューを切り替えると、様々なデザインの衣装がずらりと表示される。
「こんな機能あったんなら、早く言ってくれよ。装備がどうのって、やりくりしてた俺がバカみてーじゃねえか」
強そうなデザイン衣装を見て、指揮官ヴァンがぼやく。
「これはあくまで見た目だけの機能だから。強そうに見えても、実際のスロットにセットしてある装備以上の強度になったりしないの。いわば……お遊び要素?」
「ダンジョン内で見た目だけ変えてどうすんだよ……」
もちろんラブラブイベントを起こすためだよ!
ダンジョン内でいつもと違った格好のヒロインちゃんを見て、ドキドキしてもらうための仕掛けなんだ!
……とは言えず、私はやんわりとほほ笑む。
世間には言わぬが花という言葉もあるのだ。
見た目変更は重要な機能だけど、RTA(リアルタイムアタック)中にやるような要素じゃないから、放置してたんだよね。結局男女ともに、制服が一番動きやすいし。
「とはいえ、今の私には大事な機能ね」
リリアーナ用の衣装リストを表示させ、その中から無難なデザインの服を探す。途中で小夜子ジャージとかセーラー服とか水着とか、どこでどうデザインを引っ張ってきたのか、ビキニアーマーとかもあったけど、見なかったことにする。
結局、露出が少なくて動きやすい、という理由で王立学園女子制服を選択した。
見た目が二十代に成長しているせいで、女子大生が無理やり制服を着てる感じになっちゃったけど、これはもうしょうがないものとする。
なんか妙にエロいとか考えちゃダメだ。
「これで、よし」
設定を終えたところで、誰かの手が私の体に回った。振り返ると、クリスが私を抱きしめながら大きなため息をついている。
「あ~やっとリリィに会えた……」
「え、何それ」
私はずっとここにいましたが?
「私にとっては、どっちも違和感があったんだ。サヨコも、変な模様がついてるリリィも。ふたりがひとつになってわかった。私の友達は、このリリィだ」
「そういうものなんだ?」
自分としては心の中にキャラがふたりいる感覚だったけど、外から見たら混ざった状態の私がいつもの私なのか。
「落ち着いたんなら、スキルを確認してもらっていいか? フランにお前が使えると聞いてたが、本当か確認したい」
「いいわよ!」
ヴァンに尋ねられた私は、にんまりとわらった。
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