異邦人
「何を言い出すんですか! 小夜子さんが生き返らないなんてこと……!」
「……」
セシリアが否定を求めてこっちを見たけど、私は何も言えなかった。それは、私自身も考えていたことだったからだ。
「本当に……?」
ユラは肩をすくめた。
「なにも意地悪で言ってるわけじゃない。君たちが見ようとしてない悲劇の可能性を提示してるだけだよ」
「どういう意味だ?」
ヴァンがじろりとユラを睨む。その視線を受け流して、悪魔は語る。
「ダンジョン探索をしながら、データのやりとりを観察してたけどね、肉体から魂を分離して夢の世界に送り込んでいる、って表現には少し誤りがある。魂は体から離れてはいるものの、しっかり繋がりは残っていてダンジョンでの経験を肉体へとフィードバック……蓄積していると言ったほうがいいかな、とにかく情報を還元してる」
「情報を戻す……? どうしてそんな仕組みになってるんだろう」
「それはやっぱり、ここが訓練施設だからだね。本来夢はただの夢。どんな壮大な冒険をしたところで、目覚めれば全部なくなってしまう。でも、施設側としては訓練が無駄になったら困るよね? だから情報を一部肉体に還元して、体を強化してるんだ。ダンジョン内のレベルアップほどじゃないけど、外に出たら体がパワーアップしてるはずだよ」
「それとサヨコの死がどう関係してくるんだ」
「だって女神の使徒に体なんてないじゃない」
言われて、息が詰まった。
「肉体はいつか魂を戻すための器であり、同時に記憶媒体だ。さっき絶命した彼は、肉体に蓄積されたデータをもとに再構築されていた。侯爵令嬢の体に居候していた女神の使徒がここで死んだとして、どこからデータを呼び出せばいいんだろうね?」
「ぐ……」
仲間たちの視線が私に集まる。でも彼らに告げる言葉は見つからなかった。
悔しいけど反論できない。
「侯爵令嬢の体かな? でもあの子はバグった状態で待機状態にされてるよね。単に読み出せなくて消えるだけならいいけど、どっちをどう読みだしたらいいかわからなくて、また変なデータが出来上がったら大変だ」
「バグってるのはあんたもでしょ」
私はユラのツノを睨む。
「僕は魂に紐づいた肉体がしっかり存在するからね。それに、どうせここで死んだところで、また別の母体から産まれ直すだけだから、大した痛手じゃないよ」
くつくつとユラは笑った。人の不幸を喜ぶ心底楽し気な笑いだった。
「魂の再生ができなかったらどうなるかな~? 元の世界に帰るのかな? でもさすがに世界の境界を越えた魂が同じ場所に戻れるわけないか。この世界の輪廻の輪にちゃんと入れるといいねえ。でも魔力なしだなんて構成要素が異質な魂だからな~失敗して浄化も分解もできないバグったゴーストになりそう!」
「う……」
声が出なかった。
反論したい、言い返したい。
でもユラの指摘はどこまでも正しくて、私の存在の危うさを的確に指摘していた。
私は運命の女神がノリで連れてきた余計な存在。
それは事実だ。
息を吸ってるはずなのに、苦しい。
言葉を吐きだせない。
私、は。
「そんなことは起きません」
凛とした声がユラを否定した。
見上げると、セシリアが私をかばうように立っていた。
いつも自信なさげに曲げていた背筋を伸ばして、ユラに相対する。
「小夜子さんは死なせません。私が守ります」
「……へえ」
ユラの顔が不快そうに歪む。
「必ず守り抜いて、元に戻します」
「それを侯爵令嬢が望んでいたらいいけどね」
聞かなきゃいい。
そう思っていても、ユラの言葉は呪いのように心に突き刺さった。
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