フルダイブ型VRRPG
事態を飲み込めずにいるヴァンたちを前に、私は言葉を探した。
「仮想現実とかシミュレーションとか言っても、通じないよねえ」
「うん、わからん」
ファンタジー世界の語彙、難しい。
「そうだね……現実じゃない世界……全員で同じ夢を見てる状態、って言えばわかるかな?」
「同じ、夢……」
ケヴィンが首をかしげる。まだ実感がないみたいだ。
「元々、私たちは銀の鏡に触れてこのダンジョンに来たんだよね? あの鏡の先には、ダンジョンがあったんじゃない。人間の体から魂を分離させて夢の世界に送りこむ機械と、夢を見ている間体を保存する機械があったんだよ」
「それで、俺たちは魂だけにされてこのダンジョンに放り込まれたと」
「まあそんな感じだね」
現代日本でも、まだ実現しきれていなかった『フルダイブ型バーチャルリアリティ』ってやつである。
「これが全部……作り物?」
クリスが不思議そうに周囲を見回す。ヴァンが眉をひそめた。
「あれは『乙女の心臓』を支援する管制施設って話じゃなかったのか」
「うん、それも間違ってない。『夢を見せる機械』は、ダンジョンの夢も見せるし、管制施設の夢も見せることができるの」
「夢の使い分けか。なんだってそんなことを?」
「これは私の推測だけど……多分維持コストの問題だと思う」
そう言うと、ヴァンはますます顔を歪ませる。
「だって、どう考えてもモンスターと戦闘訓練できるダンジョンとか、何百年も維持できないじゃん。土地とか生き物の問題もあるし、仕掛けだってメンテしなくちゃすぐに動かなくなるだろうし」
「まあ……王家の抜け道も、実は近衛がこっそり手入れしてるって話だしな」
「管制施設だってそう。『乙女の心臓』の支援に加えて、『白銀の鎧』のシミュレーターとかも必要だし。それぞれ部屋を用意して全部維持するのは無理ゲーだよ」
人工物って、人の手入れがなかったらびっくりするくらい早く壊れていくんだよね。廃墟系の写真見て、何十年前の建物だよって思って調べたら実は数年前まで人が住んでたとか、よくある話だ。
「厄災の復活は数百年単位のことだからね。機能ごとにあれこれ施設を維持するんじゃなくて、たくさんの機能を持つ『夢を見る機械』と『体を維持する機械』だけを作って、その維持管理にリソースを集中させたんだと思う」
その結果、表向きはこぢんまりとしているものの、実際は多彩な機能を持つバーチャルリアリティ空間ができあがったんだろう。
「私たちの魂は今、肉体を離れて夢を見ている。だから、どんなモンスターとも戦えるし、現実には存在しないスキルを使うこともできる」
「そして、どんな怪我だって治るし、死んだってすぐに復活できる……ということだな?」
ぎゅ、とヴァンの体を抱きしめたままクリスが問いかける。私は頷いた。
ケヴィンがほう……とため息をつく。
「リリィが小夜子とふたりになってる理屈もこれで説明できるね。本来ひとつの肉体に紐づいてる魂はひとつだ。でも、リリィの中には君もいた」
「魂を分離させて仮想空間に出現させようとしたら、魂がふたつでてきたから分裂しちゃったんだと思う」
「そういうことは最初っから言ってくれ……と言いてえが……」
「うーん……これをいきなり説明されて、全部理解できたかどうかは怪しいね」
そもそもパーティーメンバーとして召喚された時点で軽くパニックになってたもんね。
「説明が遅くなってごめん……攻略が順調だったから、死んだ時のことを話しそびれてた」
「いやいい。俺もまさか自分があんなかばいかたすると思わなかったからな」
婚約者の危機に、思わず体が動いてしまったんだろう。私から見れば、すごくヴァンらしい行動だと思うけど。
「とにかく、このダンジョンにいる限りは誰も死なないから安心して」
「いや、それはどうだろう?」
にやりとツノつきの悪魔が笑った。
「それは健全な肉体が存在する場合の話だよね。女神の使徒、君がここで死んだとして、はたして生き返ることができるかな?」
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