あの子の中身。
「えーと……? すまん、ちょっと待ってくれ」
「ここが女神のダンジョンで……? え? この森がダンジョン?」
「とにかく敵を倒せばいいんだな!」
「待て待て待て! いきなり飛び出していくな!」
バカな寝言ばかり囁くユラを黙らせて、第二階層へ移動した私たちは、解放された機能を使って、早速ヴァン、ケヴィン、クリスの三人をパーティーメンバーとして呼び出した。
タンカを切ったせいで、私たち三人では空気が悪すぎて耐えられなかったともいう。
協力者として一緒に戦ってもらおうと彼らに事情説明したんだけど……与えられた情報が多すぎて、全員パニックになっていた。
気持ちはわかる。
元々実況プレイ動画民だったセシリアと違って、全員生粋の異世界民だもんね。
「ここは女神の作った不思議なダンジョンで、敵を倒して先に進めば脱出できる。とりあえずそこまで理解してくれればいいよ」
「まあ……そうするしかないんだろうけどさ」
ヴァンはがりがりと頭をかく。
「細かい注意点は、その都度私かセシリアが説明するから、ゆっくり慣れていって」
「それはいいんだけどよ」
「何?」
「お前がリリィの『中身』だってのが、わかんねえ」
「あー……」
ですよねー。
今の自分はリリアーナ・ハルバードとは似ても似つかない。初対面の妙なダサジャージの女の子が、いきなり友達っぽく話しかけてきたら戸惑うよね。
「まあ……私はなんていうか……」
「異界からやってきて、リリアーナの人生を乗っ取った存在だよね!」
「言い方ぁ!!!」
そりゃーリリアーナにとっては、突然現れた人格だけどさ!
ユラお前さっき反論されたこと根に持ってるだろ!
いかん、ヴァンたちの視線が冷たい。どうにかしてうまく説明しないと。でも悪役令嬢だの、ゲームだの、と説明しても伝わりそうにないんだよな。
えーと、えーと、こっちの世界の人間が理解しやすい言葉ってあったっけ。
「私は……その……この世界が危機に陥ってるのを心配した運命の女神が、異界から遣わした神子……みたいなもの、かな?」
「なるほど、異界からの使者か」
ふむふむ、とケヴィンが頷く。
ありがとうフラン。君に一度説明してたおかげで、なんかいい感じに伝わる言葉が見つかったよ!
「リリアーナとは十歳のころからのつきあいだね」
「とすると……もしかしてお茶会の時と、お見合いですごく雰囲気が変わってたのって……」
クリスがカトラスで感じていた違和感を口にする。
「私がリリアーナと一緒になってたからだよ」
「なるほど、数年来の謎が解けたよ」
おおざっぱなクリスが気にするほど、キャラが違ってたのか……。まあ、違和感あっても、普通は別の魂が混ざってるとは思わないよね。
「神が遣わした存在……って割には普通の人間っぽいのな」
「元は普通の人間だもん。といってもあっちの世界基準だけど」
自分が無力な子供だってことは、私が一番よくわかってる。
「私は産まれた時から体が弱くてさ。十八の若さで死んだのをかわいそうに思った運命の女神が、こっちの世界に連れてきてくれたんだ。でもほら……ここって厄災の神とかいるじゃん」
私は禍々しいツノを生やしたユラをちらりと見る。
「このままほっといたら、世界が滅びてまた大人になる前に死んじゃうから、世界を救うためにいろいろ走り回ってたんだよ」
「リリィに意味不明な行動が多いのはそのせいか……」
何かいろいろ思い当たることがあるんだろう、ヴァンがため息をつく。その肩をケヴィンがぽんぽんと叩いた。
「その彼女に助けられてきたんじゃない。君たちが今ふたりに別れてるのは、ええと……ダンジョンのせい?」
「まあそんなところだね。ひとつの体にふたつ魂が入ってたから、別扱いになったみたい」
「世界にとって、女神の使徒は異物だもんね」
「言い方ぁ!」
お前本当に余計な一言多いな!
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