フレンドリーファイア
「元のっつーか、こっちの世界で産まれたリリアーナのほうはどうなってんだ?」
「ん~……そこは私もよくわかんない」
私はメニュー画面を開くと、パーティーメンバー候補一覧ページを表示した。ヴァンたち三人がメンバー登録されたので、候補に表示されているのはリリアーナだけだ。
しかし、私というイレギュラーが存在するせいなんだろう。彼女のアイコンにはノイズがかかっていて、キャラ詳細も閲覧できない。
討伐ポイントを稼げば、ヴァンたちのようにパーティーメンバーとして召喚できると思うけど、この状態で彼女を呼び出したとして、何が起こるかわからない。バグやノイズに対処できる機能を手に入れるまでは、そっとしていたほうがよさそうだ。
「システム側からしたら、こっちのほうが正規IDのはずなんだけどね」
「人格どころか、IDまで乗っ取ってたりして」
「言い方ぁ!」
その可能性はあるけど!
いちいち怖いこと言うのやめてくれない?
「……サヨコ、そこのツノつきを一発殴って追い出していいか?」
話を聞いていたクリスが拳を構えた。
「人手が増えた以上こいつはいないほうがいいだろう」
「思い切りのいい助言ありがとう……。でも、殴るのはともかくとして、追い出すのはちょっとやめたほうがいいかな」
「何故だ? 部隊に不和をもたらす人間は、下手な強敵より恐ろしい。士気を下げるばかりのこいつをそのままにしていても、いいことはなさそうだが」
クリスの言いたいことはわかる。
実際、私もユラと喧嘩して空気を悪くさせたひとりだし。でも私たちには彼を追い出せない理由がある。
「説明するより、実際にやってみたほうが早いかな。クリス、思いっきりユラを殴ってみて」
「よし、まかせろ!」
言うが早いか、クリスはキレイなフォームでユラに右ストレートをお見舞いした。
女子とはいえ鍛錬を重ねた騎士の拳だ。ガードもしてなかったユラはそのまま吹っ飛ばされるはず……だったんだけど。
「なんだこれ?!」
悲鳴をあげたのはクリスだった。
「クリス、大丈夫か?」
婚約者の顔色が変わる。クリスは青い顔で自分の拳を反対の手でさすった。
「確かに殴ったはずなのに、手ごたえがない……実感がなさすぎて気持ち悪い……!」
「ユラ、てめえ何やった!」
「ひどいなあ、僕は何もやってないよ」
「じゃあなんで!」
「落ち着いて、ヴァン。ユラが何もやってないのは本当。
「何故そんなものが……」
「連携の練習もしてないチームでいきなり集団戦なんかしたら怪我するからだよ」
所詮ここは訓練場。
どれだけ敵と戦ったところで、ダンジョン外の本物の敵は減らない。
出陣する前の訓練で使い物にならなくなったら本末転倒だから、ダンジョン内はプレイヤーが大怪我しないよう様々な制限がかけられている。
「だったらなおさら追い出したほうがいいんじゃないか。パーティーメンバーじゃなくなったら、心おきなく殴れる」
「逆だよ。私たちの身を守るために彼をパーティーに入れてるの」
「逆……?」
クリスは不思議そうに首をかしげる。
「さっき軽くパラメーターを確認したよね? セシリアが二十、ヴァンが二十四でケヴィンが二十六、一番レベルが高いクリスでも三十どまり。それに対してユラはレベルカンストの超高パラメーターキャラなんだよ。パーティーから外して戦えるようになったとして、全滅するのはこっちのほう」
「やだなあ、そんなことしないよ」
ツノつきの悪魔はニヤニヤ笑う。
「もう一度仲間にして、って
「……つまり言うこときくまで生き地獄を味わわせるってことだろーが」
彼を封じる方法が絶対ないわけじゃないけど、現時点では無理だ。
「それに、システムへの干渉問題もある。さっき、入り口でレリーフを焼いてたの見たでしょ? 何の制限もなくダンジョンを歩かせたら、どこでどう不具合を起こして回るかわかんないよ」
「結局目の届くところに置いて、セシリアの首輪につないでるのが、一番安全ってことか」
「不本意ながら、そうなります」
セシリアが疲れたため息をついた。
望むと望まざるとに関わらず、ユラの手綱を押し付けられてしまった彼女には、ずっとストレスがかかっている。
「状況はわかった。そういう事情ならユラを追い出すのは一旦棚上げだ」
完全に諦めたわけではないらしい。クリスは大きく頷いた。ケヴィンがにこりと柔らかな笑顔を私たちに向ける。
「これからは俺たちが間に入るから、安心してね」
「ありがとう~……! 持つべきものは、コミュ力の高い仲間だね!」
こんなに心が救われる笑顔が他にあるだろうか。いやない。
「まずは森の迷路っぽい第二階層踏破を目標にしよう」
「何かあるのか?」
ヴァンに尋ねられて、私はメニュー画面を切り替えた。
そこには階層ごとにアンロックされる機能の一覧、俗に言うスキルツリーっぽいものが表示されている。
「第三階層まで行ったら、人工知能による対話型ダンジョンナビゲーションが解放されるんだ」
バグを直すなら、まずはナビゲーション機能をゲットしないとね!
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